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円の実力低下は何が問題なのか

 しかし、やはり円の実力が下がっているのは問題です。円の実質実効為替レート(通貨の総合的な実力)は約50年前の水準まで低下してしまいました。ピーク時の半分以下ということです。このレートは「円の購買力」を示します。

 一般論として、円安は輸出産業に有利ですが、輸入産業には不利です。購買力が低ければ、海外からものを買うときに一段と高くなるからです。

 ロシアのウクライナ侵攻で、石油や小麦の値段が上がっているのに、円安によってさらに輸入品が高くなる。まさにダブルパンチです。

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 物価が上がっても給料も上がれば問題はありませんが、給料が上がらないまま物価だけ上がるのは困ります。これから給料を上げることができるのか。岸田内閣の腕の見せ所ですし、労働組合の力量にかかっているのです。

©️iStock.com

田中角栄は「社会民主主義」だった

 世界的に貧富の格差が広がっています。平均賃金トップのアメリカでも、社会主義に傾倒する若者が増えています。若い世代はソ連の悪夢を知りませんし、「社会主義」という言葉に対するとらえ方が、以前とはずいぶん変わってきているのでしょう。

 2018年の選挙では、現在の新自由主義のアメリカ社会を批判するバーニー・サンダースが上院で3選を果たしましたし、下院ではニューヨーク州のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス、ミシガン州のパレスチナ系の女性議員ラシダ・タリーブら、それぞれ民主社会主義を標榜する人物が当選しています。

 ヨーロッパでも同じです。「自国第一主義」と「移民反対」を掲げる過激な右派政党が躍進する一方で、ドイツでは社会民主党と緑の党が伸びています。世界を見渡すと、日本以外は社会民主主義勢力(左派)が伸びているのです。

 しかし考えてみると、日本の自民党でも岸田首相が率いる宏池会の体質は、国際スタンダードでいうと「社会民主主義」に分類されると言ってもいいでしょう。とくに、自民党の田中角栄がやったことなどは、社会民主主義そのものでした。「福祉元年」をスローガンに掲げ、社会保障を充実させました。「大盤振る舞い」と言えないこともありませんが、新自由主義の考え方では、年金重視の発想は出てきません。年金も医療も自己責任。だから公的な社会保障制度が不十分なアメリカはいま、貧困率が長期的に高い水準にあり、ひどいことになっています。