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放射性物質を摂取させられ死亡…プーチン大統領の暴挙の始まりは2006年だった

池上彰のプーチン解析

2022/05/26
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 開戦から2カ月半、苛烈さを増す「プーチンの戦争」。侵攻開始のはるか前から何度も連載コラムで取り上げてきた池上氏が語った注目すべき点。そして、意外な面々が名指しされた「ロシア入国禁止リスト」の裏側とは――。

「週刊文春」連載をまとめた「独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか」(書籍、電子版とも発売中)を緊急出版したジャーナリストの池上彰氏(71)。じつは池上氏は2014年から、プーチンの干渉で緊迫するウクライナ情勢を頻繁に取り上げてきた。池上氏がプーチンを“徹底解析”する。

都内大型書店では早ければ13日にも並ぶ

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ウクライナとロシアの対立

 まさか、21世紀にこんな戦争が起こるとは――。今回のウクライナ侵攻には大きな衝撃を受けました。

 しかし、ロシアをめぐって「今の時代にこんなことが」と衝撃を受けたのは、これが初めてではありません。最初の出来事は14年。プーチン大統領がウクライナ領だったクリミア半島にロシア軍の特殊部隊を派遣し、あっという間に奪ってしまったときでした。

 じつはクリミア半島には以前から注目していました。それは、帝政ロシア時代からの要衝・セバストポリ軍港があるからです。

 ソ連は長年の間、ここに黒海艦隊を駐留させていました。ところがソ連が崩壊してウクライナが独立国となると、ソ連の黒海艦隊の帰属をめぐり、ウクライナとロシアの間で対立が起きた。結局、1997年5月に結ばれた協定により、ロシア海軍とウクライナ海軍に“分割”されました。

 

功を奏した“買収作戦”

 しかし、セバストポリは黒海への玄関口。冬には周囲の海が凍ってしまうロシアにとっては、喉から手が出るほど欲しいはずの不凍港です。いずれロシアはセバストポリを「ロシア海軍の基地にしてほしい」と言い出すはず。そうなれば、ウクライナとの対立の火種になりかねない――。そう危惧していました。

 実際、併合前のクリミア半島に取材に行った際にセバストポリも訪問しましたが、そこではロシア海軍とウクライナ海軍の艦船が並んでいた。「こんな状態がいつまでも続くはずがない」と感じました。14年、その懸念が現実のものとなってしまったのです。

 一方で、併合後の15年にクリミア半島に取材に行くと、意外な光景がありました。セバストポリ市内に住む4人家族に話を聞くと、こんな答えが返ってきたのです。

「生活費は前よりかかるようになりましたが、収入が格段に増え、医療費が無料になって、暮らしは前より楽になりました」