「歴史は繰り返さないが韻を踏む」
安倍元首相や、そのまま安倍路線を継承した菅義偉前首相は、強権的な政治を行うと批判されましたが、岸田首相は「強権的なことはしません。みんなの声を聞きます」と言っています。明らかに清和会批判です。
岸田首相を見ていると、アメリカの作家、マーク・トウェインが言ったとされる有名な言葉を思い出します。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」。つまり、過去の歴史をそのまま繰り返すことはないけれど、韻を踏む形で非常に似たようなことが起きるのだということです。
岸田政権が誕生した直後、私は1960年代を思い起こしました。1960年、安倍元首相のおじいさんの岸信介が総理大臣で、日米安保条約の改定を強行しようとして反対の声が盛り上がり、デモ隊が国会を取り巻きました。あのとき、日本は国論が二分されたのです。ところが岸が辞めた後、池田勇人が総理大臣になって、突然「所得倍増論」を打ち出しました。すると、それまでの分断された政治の季節から、経済の季節に変わります。「みんなが豊かになればそれでいいじゃないか」と。安保騒動の後の社会不安を経済発展で払拭しようとして、国民は惹きつけられました。
当時の野党第1党は社会党です。社会党は「この分断は自民党がつくり出した。みんなの給料を引き上げて豊かになろう」というのを選挙のスローガンにしようとしていたら、池田勇人に取られてしまったのです。結果的に選挙で自民党が勝利。社会党が票を伸ばせませんでした。どうですか、この前の衆議院選挙を彷彿とさせるでしょう。
新自由主義からの脱却
岸田氏は宏池会(現岸田派)のトップです。明らかに池田勇人を参考にしています。さらに「私が目指すのは新しい資本主義の実現です」と言いました。新しい資本主義とは何か。これはすなわち「新自由主義からの脱却」です。「小泉・竹中路線」とよくいわれましたが、新自由主義とは、とにかく規制を取り払い、すべてマーケットに任せようという考え方です。
日本は構造改革路線をひた走り、労働者派遣法の改正で非正規社員が増えたといわれています。格差が拡大する中で、安倍政権もこの路線を引き継ぎました。菅政権もそうです。とくに菅氏は「自助・共助・公助」という言い方をしていました。最後は国が助けますが、まずは自分で何とかしろ。これはまさに新自由主義です。
岸田首相は、アベノミクスは失敗だったと思っているから「分配なくして次の成長なし」と言ったのです。同じ党内でトップが変わることによって方針がガラリと変わる。これが自民党です。
自民党内で、清和会が「右寄り」とすると、宏池会は「中道」です。振り子がどちらかに振れすぎたら、バランスをとる。自民党内には常にそれがあり、結果的にこれが、疑似的な政権交代のように見えるのです。今回は清和会から、宏池会へ自民党内で疑似政権交代が起きました。
こうなると、わざわざ立憲民主党に任せなくてもいいのではないかと考える有権者もいるでしょう。これでは野党の出番がありません。