2020年に行われたOECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本人の平均年収はアメリカの約半分で、韓国より低い額となっている。世界第3位の経済大国であるにもかかわらず、日本人の給料はなぜ低空飛行を続けているのだろうか。

 ここでは、池上彰氏の著書『知らないと恥をかく世界の大問題13』(角川新書)の一部を抜粋。政治的な背景とともに、平均賃金が横ばいになっている理由について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「30年間給料が上がらない」は悪なのか

 「日本はどんどん貧乏な国になっている」。外国人が日本に来て、物価の安さに驚くといいます。物価だけではありません、給料も安いのです。

 経済協力開発機構(OECD)が公表した世界の平均賃金データによると、2020年の平均賃金トップはアメリカ、2位がアイスランド、3位ルクセンブルクと続いて、日本の平均年収は35カ国中、22位でした(1ドル=115円で計算)。これは主要7カ国中、下から2番目。ちなみにお隣の韓国は19位でした。

 1人あたり名目GDP(国内総生産)においても、日本は2018年に韓国に抜かれています(IMF=国際通貨基金が公表している1人あたりのGDP。2017年の物価水準でみた購買力平価=PPPによるもの)。

 日本はいま世界第3位の経済大国のはずなのに、先進国の中で賃金や生産性が最低レベル。平均年収も1991年を100とした場合、見事に横ばいです。バブル崩壊以降、30年間ほとんど給料が上がっていないのです。

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 だからいま、岸田文雄首相は経済界に「3%賃上げ」を要請しました。しかし、賃金が上がらないのは、日本ならではの理由もあるのです。

賃金と失業率の関係

 たとえばアメリカなどは、景気が悪くなると簡単に従業員のクビを切ります。会社が従業員を解雇しやすい仕組みになっているのです。結果的に失業率は高くなります。

 韓国は2018年に最低賃金を16.4%も引き上げました。よって給与水準は上がったのですが、逆に雇用する側からするとコストがかかるので雇う人数を減らそうと考えます。だから失業率は上がったのです。

 世界189の国や地域で「失業率」を比べてみると、日本は169番目に低くなっています。ですから、単純に平均給与を比べるのではなく、失業率も加味しないとフェアではない気がします。韓国は、平均給与は高いけれど失業率も高い。日本は賃金の引き上げよりも雇用を重視した。

 もうひとつ、日本は休廃業もとても少ないのです。つまり倒産が少ないからライバルが多く、給料も上がらない。ガムシャラにならない代わりに活性化もせず、起業をする人も少ない。そういう分析もできるのではないでしょうか。