1ページ目から読む
2/2ページ目

誰もが完璧に認めるザ・キャプテンだった池田陵真

 西武に3連敗を喫することになる4日の午後。ファームのソフトバンク戦(タマスタ筑後)を雑用を片付けながらBS放送で見た。ここで目を引いたのがオリックスの「元大阪桐蔭」、ルーキーの池田陵真だった。5月には佐々木朗希からヒットを放ち1軍でも話題になったのち、5月16日に降格。

 ファームではここまで73試合の出場で規定打席に達し打率.238、3本塁打、18打点。ライト来田、センター元と実に楽しみが詰まった面々と外野を守り、しっかり経験を積んでいる。杉本商事BSスタジアム舞洲や鳴尾浜で観戦した際も、1年目と思えない雰囲気でプレーし、打席ではしばしばバットが空を切ってもプロのストレートの速さ、強さに負けてないフルスイング。さすが大阪桐蔭の元4番の迫力を伝えていた。高校3年時、あまりの二の腕の太さに思わず、カブレラみたいやな、と言ったことがあったが、当時はその腕で金属バットを持っていたのだから打球は危険を感じるほど強烈。ショートゴロに相手野手のグラブが押されヒットになる場面を3年間で3度見た。三塁手ではなくショートの選手のグラブが押されるのだから、強さの程がわかるだろう。

池田陵真

 大阪生まれの大阪育ちで森と同じオリックスジュニア出身。地面にたたきつけるようにして伸びる外野からの返球も含め、池田は多くのものを持っている。その最たるものは、日本一が宿命づけられた集団の中でひたすら野球に打ち込み、チームを束ねながら培われたキャプテンシーであり、勝利への執念だ。中村、西岡、平田、中田、浅村、森、藤原、根尾の中で、主将を務めたのは森のみ。それも森は下級生の時に1番捕手として春夏連覇を経験。抜けた実力と経験があっての主将でもあったが池田の場合は野球への取り組み、生活面、すべてにおいての姿勢を評価され、選手、指導者の誰もが完璧に認めるザ・キャプテンだった。

ADVERTISEMENT

「やめろというまでバットを振っている」。「3年夏の甲子園で負けて帰ってきたらウエートをやっていた」。この種のエピソードが大阪桐蔭時代の池田の周辺からはいくつも聞こえて来る。まさに姿で見せ、背中でチームを引っ張った。今はプロであっても強いチームには揺るぎない姿勢で野球と向き合うキャプテンがいる。池田はリーダーとして例えば、村上にも通じる資質を備えていると見る。その意味でもオリックスの大きな希望である。そこへもう1つ。

追い込まれれば追い込まれる程、力を発揮する男のはず

 無類のキャプテンシーを秘める18歳は無類の勝負強さも秘める。1年前の夏、大阪大会準決勝(関大北陽)で1点ビハインドの9回表に起死回生の同点弾。高校野球の世界では滅多に見れない土壇場での一発には、直後、大阪桐蔭のコーチ陣らと顔を見合わせてもお互い「さすが池田……」としか言葉が出なかった。さらに決勝の興国戦では9回二死からレフト前へサヨナラヒットでチームは甲子園出場。まさに土壇場で決める勝負強さを続け様に見せられ、僕の中でまだ少し迷いのあった池田への評価がこの時はっきり定まった。間違いなくプロで働く選手になる、と。

 テレビ観戦のソフトバンク戦でも8月下旬に19歳となるルーキーはしっかりと振っていた。1、2打席目はスチュワートの150キロ超えの高めストレートに空振りが続き2三振も、3打席目には板東から逆方向へ返し、ライトフェンス直撃のツーベース。4打席目には一転、左腕田浦から痛烈に引っ張り、三塁手リチャードのグラブを跳ねのけるレフト前ヒット。まさに高校時代を思い出させる強烈な打球で4打数2安打。

 順調な成長ぶりを目にすると、ふと頭によぎってくるものがあった。混戦模様のペナントレース終盤戦にこのルーキーが大仕事をやってのけるのではないか、という、ある意味では途方もない予感だ。もつれあったまま進み、残り数試合。負けの許されない局面でこの男の磨き抜かれてきたメンタル、ひと振りが勝利を呼び込むのではないか。18歳のルーキーになんと過酷な期待を……と言われるのは承知の上。しかし、追い込まれれば追い込まれる程、力を発揮するのがおそらく池田陵真という男のはず。元大阪桐蔭のキャプテン、そして4番の底力を知らされる、そんな秋との出会いを密かに楽しみにしておきたい。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/56285 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。