1ページ目から読む
5/5ページ目

「我先に」の気持ちが渋滞につながる

 最後に、大きな視点としての渋滞対策についても触れておきたい。目の前の渋滞が消えてなくなるわけではないが、個々のドライバーが次のような意識を持つことで、全体としての渋滞抑制につながるはずである。

 重要なのは、「車速を一定に保つこと」と「車間距離を十分に保つこと」の2点だ。 

©iStock.com

 渋滞が生じる要因の1つに、「サグ部(道路上で、下り坂から上り坂へと切り替わる「窪み」にあたる箇所)」における車速の低下が挙げられる。ここで傾斜の変化に気づかず自然にスピードが落ちてしまうと、後続車の不要なブレーキを引き起こし、次へ次へと伝播していく。

ADVERTISEMENT

 こう書くと「運転が下手なドライバーが原因」と思われてしまうが、視覚情報の変化に乏しい高速道路ではとくに、緩やかな傾斜の変化に気づけない場合も多い。高速道路において、サグ部には「速度低下注意」「ここから上り勾配」といった注意看板が設置されているので、そうした場所では意識的にアクセルを踏み込んでいこう。

 もう一点の「車間距離を十分に保つこと」についてだが、これは以前から東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕(にしなりかつひろ)教授らのチームによる研究を通じて、渋滞を緩和する効果が認められている。

 ここで提案されている「渋滞吸収理論」の概要は、次のようなものだ。すなわち、渋滞時にある車両(渋滞吸収車両)が車間距離を広く保ち、ブレーキ頻度を減らしつつ、なるべく一定の速度で走行することにより、後続車の速度も一定に保たれ、渋滞が解消に向かっていくというのである。

 実際に、同研究チームとJAFが小仏トンネル付近の渋滞で行った実証実験においては、渋滞吸収車両の通過前後で一般車両の平均車速が回復するという結果が得られている。実験車両は4台のみであったにもかかわらず、顕著な効果が見られたのだ。

 ポイントは「渋滞ポイントに差しかかる前から少しずつ速度を落とすこと」「割り込まれても車間距離を再度確保すること」「低速時にもなるべく一定の流れを維持すること」にある。渋滞時には「なるべく早く先に進みたい」「隣のレーンの車に入られたくない」といった心理から、車間が近くなりがちだが、周囲に惑わされない走行が、結果的に多くの人にとって益となる運転になるわけである。

 反対に、車間距離を詰める行為や、頻繁な車線変更は、不要なブレーキを引き起こすことから、渋滞の原因となりうることが知られている。いずれの行為も、到着時間にほとんど影響せず、メリットは「苛立ちがわずかに解消される」というごく個人的なものに過ぎない。にもかかわらず、生じさせるデメリットは道路利用者全体に及ぶ。

 高速道路の渋滞においては、「自分だけ先に行きたい」という気持ちがかえって状況を悪化させてしまう。少しでも早く着きたい気持ちは当然だが、あくまで視野を広く保ち、冷静な判断のもと安全運転に努めたい。