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「今回の戦争でかなりロシア人の友人を失った」安全保障研究者の小泉悠が直面した、大国・ロシアが持つ“違う世界観”

小泉悠さんインタビュー#3

2022/08/19
note

昨年10月に抱いたロシアへの不審

――去年の10月にツイッターで、CNA(アメリカのシンクタンク)のコフマンの分析を引きつつ、国境にロシア軍が集中している事を不審に思われてましたね。ワシントンポストが衛星情報からロシア軍の集結を報じるより少し早かったと思いますが。こうした情報はどう集め、判断されてましたか?

※上記は小泉さんのTwitterアカウント。

小泉 コフマンはアメリカきってのロシア軍専門家で僕も会ったことがあるので、信頼できることは分かってて、コフマンがあそこまで懸念を示すのはやばいのかなと単純に思ったのと、地上からの映像ですね。TikTokにアップされた動画を見ると、動いている兵力の規模がちょっと普通じゃないなと。

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 自分で書いたメルマガのバックナンバーを見返すと、ワシントンポストの記事が出る確かちょっと前に、ウクライナ危ないんじゃないかみたいな記事を書いてるんですよ。もちろん、「わかりませんけど」という前提ですけど、あの時には僕はなんか変なことしているなという感じを持っていたと思います。  

 もう一つは、メドヴェージェフ前大統領です。プーチンがその前の7月に「ウクライナとロシアは一体だ」って論文を書いて、そんな民族主義丸出しのウクライナを見下した話をよく大統領府のサイトに掲載するもんだと思ったんですけど、10月にはメドヴェージェフがコメルサント紙にものすごく汚い言葉でウクライナを脅しつける文章を書いて、「元大統領が言うか」と本当に異常だと思ってました。

メドベージェフ前大統領 ©文藝春秋

 ラヴロフ外相も同じ10月に第二次ミンスク合意を履行させるように圧力かけてくれっていう書簡をドイツ、フランスの外相に送っていますが、返事がないとか言って、その内容をいきなり公表しちゃったんですよね。外交プロトコル上ありえないし、12月にはNATOとアメリカに対してNATO不拡大要求と、これも公開で出すんです。なんかもう、ロシアの行動がタガが外れているというか、外向的なレトリックもおかしくなってるなと。

2人の自分の間で揺れ動く判断

小泉 年が明けてぐらいから、軍隊の集結が完全に異常でした。僕の中でロシア屋の自分と軍事屋の自分がいて、軍事屋の自分は明らかにおかしいと思ってるんです。でも、ロシア屋の自分は「そんなことしても得にならないし、脅しだけじゃ」と思ってるんだけど、もう軍隊の集まり方が演習でも見たことがない……。といったように自分の中でもずっとマタ裂き状態でした。

 だから、決して僕だけが早く見抜いてましたとか、そういう話ではないんです。僕も最初、ずっとどうなるんだろうと悩みながら、でも事実として、こういうことが観察されていますと書いていくしかないなと思ってやっていました。 

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