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「聖母マリアがジャベリンを抱く画」が示す国民性とは? 小泉悠・高橋杉雄が迫るウクライナ戦争のリアル

「聖母マリアがジャベリンを抱く画」が示す国民性とは? 小泉悠・高橋杉雄が迫るウクライナ戦争のリアル

小泉悠・高橋杉雄対談

扱いが難しいジャベリンをいきなり実践現場に

高橋 なるほど……。当初は非常に使いやすいと言われたジャベリンですが、実際のところは扱いが難しいらしいです。というのも、ジャベリンの操作運用マニュアルは250ページほどもあって、本来なら80時間の講習が必要とされている。特に、赤外線センサーを冷却するプロセスが複雑とのことです。それをウクライナ軍はいきなり実戦現場に放り込んだので、混乱してしまう兵士もいた。

 ジャベリンには、製造元であるロッキード・マーティンのカスタマーサービスのフリーダイヤルが記載されているらしいです。前線から電話するケースもあるようですが、実はつながるのは広報部署で、すぐには答えられない。

小泉 ははは。

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高橋 さらに言えば、カスタマーサービスなんて基本的に繋がりませんからね。特に、あのアメリカですよ?

小泉 アメリカでカスタマーサービスに電話した経験はないですが、繋がらないものですか(笑)。

高橋 難しいですよ! 仮に電話が繋がって「いま戦場で敵と戦ってるんだけど」と言われても、どうしようもないですけどね。

小泉 それは製造会社の人間も困るでしょうねえ。

高橋 また、ウクライナ軍には世界各国から義勇兵が参加している。米軍出身の義勇兵は、ジャベリンの扱い方が分かっているから、指導も行っています。彼らが前線に出てジャベリンの指導をしていることもあり、民間人にそこまでの危険を冒させていいのか、という批判も出てきています。

米軍のハイマース

ロシア軍のキーウ周辺からの見事な撤退

小泉 ウクライナ軍の激しい抵抗にあったロシア軍は、三月末から四月頭にかけて、キーウ周辺からの撤退を始めましたね。

高橋 私は「ロシア軍は撤退時に大損害を出すだろう」と予想していたのですが、ほとんど被害を出さずに、非常に整然とした撤収を成し遂げた。あの鮮やかさを見て「さすがはロシア軍だ」と感心したのを覚えています。これもまた、歴史に残るような撤退戦でした。

小泉 ロシア軍って妙に戦慣れしていますよね。

 少し補足すると、軍隊は撤収する時が最も脆弱となり、損害が出やすい。昔、ヤクザの組長のインタビューを見ていたら、「敵のヤクザのタマを取りにいく時は、刺した後が大事だ」と語っていました。刺した後に大慌てで逃げると逆にそこを狙われる。怖がっている素振りを見せずに、堂々と歩いて下がらなければならないと。それを聞いて、「あ、戦争と同じだな」と思ったことがあります。