上位国では国会議員の半数近くが女性
具体的に、「ジェンダー主流化」の合言葉の下で2000年代のヨーロッパがどのような政策を進めてきたのかを見ていこう。
まずは、政治から。
ジェンダーギャップ指数の「政治的エンパワーメント」は、(1)女性国会議員比率、(2)女性閣僚比率、(3)過去50年の女性首相/大統領比率の3つの指標で測定される。
とくに(1)の女性議員を増やすための政策として、欧州は「クオータ制」の導入を進めてきた。欧州が導入したクオータ制は選挙の立候補者のうち一定割合を女性にすることを義務づけるものである。
クオータ制の議論は、欧州では1970年代から活発になされてきた。というのも、女性政治家の少なさという問題は第二波フェミニズムが、第一波フェミニズムから引き継いだメイン・イシューのひとつだったからだ(第一波フェミニズムとは、19世紀後半から20世紀前半の女性権利運動のことを指し、第二波フェミニズムとは1960年代末から世界的に盛り上がった女性運動のことを指す)。これらの女性運動の訴えは、社会的な議論を喚起し、実際に社会的制度を変えてきた。
1970年代後半から、北欧を中心に各政党によるクオータ制導入が進んでいく。ノルウェー、スウェーデンは、1985年の時点で国会議員に占める女性の割合が3割を越えている。現在、スウェーデン(5位)の国会議員に占める女性の割合は46.1%、ノルウェー(3位)は45%となっている(注1,カッコ内は『グローバル・ジェンダーギャップ・レポート2022』での順位, 以下同)。
フランス(15位)は、1970年代末から80年代にかけてクオータ制の導入が提起されたが、クオータ制は男女の形式的平等を定めた憲法に反するという判決が出たことから、1999年憲法に「公職への男女平等なアクセス」(第3条第5項)を明記するという憲法改正を経て、2000年に「パリテ法」を成立させ、全国一律のクオータ制導入に踏み切った。「パリテ」とは「同等・同量」という意味である。これによって、フランスのすべての政党が立候補者のジェンダー比を均等にしなければならなくなった。違反すれば政党助成金の減額という罰則を付きである(注2)。
パリテ法の制定を境に女性議員率は段違いに上がった。ただし、その後の伸びは緩やかで、罰則強化とともに女性議員割合が増えてきたという状況だ。上下院ともに女性議員が3割を越えるのは2017年以降と欧州のなかでは比較的遅い。現在、上院議員に占める女性の割合は35.1%、下院議員の女性割合は37.3%となっている。
それに対して、ドイツ(10位)は、各政党がクオータ制を導入する形で、成功を収めてきた。やはり1970年代からクオータ制の議論を行っており、1986年に緑の党、1990年に社会民主党、1996年に保守派のキリスト教民主同盟がクオータ制を導入した。この結果、ドイツは2000年には、国会議員に占める女性割合3割を達成。2005年にメルケルが初の女性首相となったのはこのような状況の中でであった(注3)。
このように、一言でクオータ制導入といっても、フランスのように国全土に適用される罰則つきの法律を作るといった法律型クオータをとるか、ドイツのように各政党が独自の目標を立てながらやっていく政党型クオータをとるかといった実行の仕方の違いは、それぞれの歴史的経緯や文化といった“お国柄”が出るところでもある。