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「あくまで平家の人々に寄り添った物語にしたかった」アニメ『平家物語』脚本家が語る、“未来が見える目”が生んだ“緊張感”

尾上菊之助×吉田玲子#1

note

未来が見える右目、亡者が見える左目

菊之助 なるほど! びわは未来が見えてしまう右目を持っていますよね。驚きましたが、素晴らしい設定だと思いました。

琵琶を弾く少女・びわは、重盛と出会い、平家の滅亡を予言する。重盛に頼まれ、びわは邸に居着くことに。(TVアニメ『平家物語』より)

吉田 日本人は、平家一門が源氏に滅ぼされるという「平家物語」の結末を知っていますよね。それをあらためて見せられることになるわけですが、その点で、未来が見えるびわと視聴者は同じ立場。平家の人々が必死に生きた過程を、びわと同じ目線で見届けることができるようにと考えました。平家の滅亡をびわが予感することによって、物語に緊張感も生まれます。

 あの人もこの人も運命に巻き込まれていく、とあらかじめ予感させることで次が見たくなるという作劇上の効果も含めて、「見える」という要素を入れました。

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菊之助 一方で、重盛は亡者が見える左目を持っていますね。

吉田 びわが重盛とどう心を通わせていくのかを考えたときに、異能の者同士が出会うところから物語を始めようと。

菊之助 面白いなあ。ちなみに吉田さんは何か見えるんですか(笑)。

吉田 私は何も見えません(笑)。でも視聴者はみんな、物語の未来が見えている人ですね。

「重盛が生きていれば平家は滅びなかった」

 アニメ版『平家物語』は、平安時代末期、武士の平清盛が朝廷で巨大な権力を得てから、1185年の壇ノ浦の戦いで平家滅亡に至るまでの十数年間を中心に描いている。清盛は、娘・徳子を後白河法皇の息子・高倉天皇に入内させ、子(安徳天皇)が生まれたことで、平家一門は栄華を極める。傍若無人に振る舞い、朝廷勢力と対立を深めていく清盛に、生真面目な息子の重盛は頭を悩ませ奔走する。徳子をはじめ、権力者に翻弄される白拍子など、今まであまり語られてこなかった女性たちのドラマも描かれており、高く評価された。

後白河法皇は平家を打つ討議を交わすが、それを知った清盛は激怒。朝廷に仕える重盛は、頭を悩ませる。(TVアニメ『平家物語』より)

菊之助 歌舞伎には『義経千本桜』や『熊谷陣屋』など、「平家物語」の後日談や外伝的な物語がたくさんあります。アニメが古典歌舞伎の演目を観るための入口にもなっていると思いました。歌舞伎役者としては、「平家物語」は必ず読むものなのですが、重盛という人物を非常に魅力に感じていたので、アニメでもそのように映っていて嬉しかったです。前半で重盛は若くして病死してしまいますが、「重盛が生きていれば平家は滅びなかった」と言われる所以をよく描いてくださいました。