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超人ではない“等身大の泥臭いエース”内海哲也に励まされた日々

文春野球コラム ペナントレース2022

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内海に励まされた鳴かず飛ばずの日々

 シーズン終盤、内海投手は中日の吉見一起さんと壮絶な最多勝争いを繰り広げていました。自己最多の15勝を挙げたあと、17勝目は高橋由伸さんの代打サヨナラ3ラン本塁打。さらに18勝目は長野久義選手の代打逆転サヨナラ満塁本塁打で挙げています。その結果、吉見さんと同数で最多勝のタイトルを分け合いました。

 まさに神がかったタイトル奪取でしたが、内海投手はそんな運を呼び込むにふさわしい人物でした。上司からの苦言に耐え、メディアからのバッシングにも腐らず、1球1球粘ってアウトを積み重ねる。内海投手は「泥臭いエース」でした。

 僕が所属する純烈というグループは2010年にデビューしているのですが、何年も下積みや鳴かず飛ばずの時期が続きました。やることなすことうまくいかず、仕事もない。そんななか、決して超人とは言えない内海投手が泥臭くエースの座に登り詰める姿には、ずっと励まされてきました。

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 逆に言えば、内海投手が「エースになりたい」と言い続けてくれたからこそ、僕たちファンは内海投手を近くに感じて、「おーい内海、頑張れよ!」と声援を送りやすかったのかもしれません。

内海の価値を見出した西武の慧眼

 そんな内海投手が巨人を去ることになったのは、2018年オフ。FAで獲得した炭谷銀仁朗選手の人的補償として、西武へ移籍したのです。同年には長野久義選手も人的補償で広島に移籍しています。功労者であり人格者でもある両選手がプロテクトされていなかったことには、当時巨人ファンの間でも批判の声が多数あがりました。

 個人的な意見を言わせてもらえるなら、内海投手の人的補償での移籍はショックだったものの、「やむをえないのかな……」という思いでいました。プロテクトできる上限が決まっている以上、高額年俸のベテランが漏れてしまうのは避けられません。誰かが入れば、誰かが押し出される。プロスポーツの宿命とも言えます。

 それと同時に、「さすが西武だな」とも感じました。内海投手の価値は単純な勝利数だけでは測れません。エースとして修羅場をくぐってきた経験と、暴露系YouTuberでも「内海さんはいい人」とネガティブなネタが出てこない人間性。それらを評価して、西武は内海投手に白羽の矢を立てたのでしょう。

 移籍後の4年間でここまで通算2勝に留まっているとはいえ、西武の若手投手陣にとって内海投手は「生きた見本」だったに違いありません。今の絶好調の西武投手陣を見ていると、なおさら「いつか巨人に……」という思いがもたげてしまいます。重ね重ね、西武ファンのみなさまにはお詫び申し上げます。

 近い将来、こんな光景が見られたらいいなと夢想しています。ムスッとしがちな阿部慎之助監督の隣でムードをやわらげる内海コーチ、孤高の存在になりつつある菅野投手に「おい、トモ!」と気さくに話しかける内海コーチ……。チームの潤滑油になってくれるイメージをリアルに描けます。

 引退した選手に対して「夢をありがとう」というフレーズをよく使いますが、僕は内海投手に対しては少し違うのかなと感じています。

 内海投手がいつも戦っていたのは壮絶な「現実」でした。波乱に満ちた野球人生を通して、酸いも甘いも、喜怒哀楽もすべて見せてくれた。等身大の生き様を見せてくださって、心からありがとうございましたと伝えたいのです。

 そして、もうひとつ。やはり最後に言わせてください。

 いつの日か、またジャイアンツのユニホームを着る日を楽しみにしています。

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