あとは単純に、新しい知識を得ることで、それまで自分が想像もつかなかったことが想像できるようになったり、自分の中で結びつかなかったものが結びついたりもしますよね。自分の知識体系や、世界の認識自体がダイナミックに変わっていく。逆にそうしないと、人間はどんどん腐っていくんじゃないですか。
――『君のクイズ』では、登場人物の過去の経験と知識が結びついていくのも印象的でした。
小川 クイズプレーヤーだけじゃなく、多くの人々が日々、過去の経験を参照しながらひとつひとつの決断を下して生きている。だから小説内でも、経験と知識の結びつきみたいなものを書いたんです。
そして競技クイズの場合は、過去の経験から得た知識を用いて問題に臨み、正答したときには「ピンポン!」という音で認めてもらえる。そうやって自分の過去の経験を肯定してもらえるのも、競技クイズの魅力のひとつだと思います。
自分の人生に関係するクイズを楽しんでほしい
――ありがとうございます。最後に、文春オンラインの読者に向けて『君のクイズ』の読みどころを教えていただけますか。
小川 難しいですね……。読みどころは読者が自分で見つけるもので、作家が押し付けるものではないから(笑)。
――それはおっしゃる通りですね(笑)。失礼しました。
小川 でもまあ、一番キャッチーなのは「なぜゼロ文字押し正答ができたのか」という部分じゃないですか。
ちなみに書店員さんの感想の中には、「著者がSF作家だから、最初は未来予知の話だと思いました」というのがありました。
――正直、私も最初はそう思いました。
小川 でも、そういうことは起きません。ちゃんと現実世界の話として、僕なりの答えを出しているので。
あとはやっぱり、競技クイズの世界が誰にでも開かれたものだと感じてほしいですね。さっきも言ったように、素人でもクイズ王に勝てる可能性があるし、そういう問題がこの世には存在するんですよ。それはつまり、その人にしかない経験がクイズとして出題される可能性もあるということ。
――自分にしかない経験が知識と結びつけば、誰もがクイズ王に勝てるチャンスがある。
小川 そういうことです。『君のクイズ』では20問くらいの問題が出てくるので、自分の人生に関係するクイズを見つけて「これ、わかる!」という気持ちよさを楽しんでいただきたいですね。
撮影=釜谷洋史/文藝春秋