最高裁の規程では、通常の少年事件の記録は、少年が26歳になるまでの保存が定められている。ただし、「史料又は参考資料となるべきもの」は、保存期間を過ぎても「特別保存」として永久保存しておくことが定められている。
記録が廃棄されていたのは、神戸家裁だけではなかった
この規程の運用について定めた最高裁通達では、特別保存すべきものとして「重要な憲法判断が示された事件」のほか、
▽世相を反映した事件で史料的価値の高いもの
▽全国的に社会の耳目を集めた事件
▽少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件
などが挙げられている。
神戸連続児童殺傷事件の記録は、特別保存とされて然るべきだった。しかし、神戸家裁には重要な事件記録を長く保存しておくという発想が伝統的に欠落していたのではないか。特別保存してある記録は1件もないのだという。
もっとも、記録が廃棄されていたのは、神戸家裁だけではなかった。その後の報道で、長崎家裁が、2つの著名事件の記録を廃棄していることが分かった。
全国的に特別保存になって当然の事件記録が廃棄
1つは、2003年7月に長崎市で12歳の中学1年男子生徒が、4歳の男の子を誘拐し、性器に危害を加えた後、立体駐車場の屋上から突き落として殺害した事件。もう1つは、2004年6月、11歳の小6女児が、同級生の女の子の首をカッターナイフで切りつけて殺害した、同家裁佐世保支部の事件だ。
当時の少年法では、少年院に送致できるのは14歳以上だったことから、男子生徒も女児も児童自立支援施設への送致となった。両事件の後、再び少年法が改正され、少年院送致の年齢は「おおむね12歳以上」に引き下げられている。両事件もまた、少年司法に大きな影響を与えた事件だった。
ほかにも、
▽2000年に愛知県豊川市の民家で、17歳の男子高校生が見ず知らずの主婦を殺害し、動機を「人を殺してみたかった」と語った事件
▽2004年に名古屋市の中学生らが同級生に対する恐喝を繰り返し、約5000万円を奪っていた事件
▽2006年に奈良県田原本町の医師宅で、16歳の長男が放火し、母親と幼い弟妹を焼死させた事件
など、全国的に社会の耳目を集め、特別保存になって当然の事件記録が廃棄されていた。