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「胸腔ドレナージは基本的な手技だが、決して簡単な処置ではない」

 胸腔ドレナージは、ICUに限らず一般病棟でも広く行われている処置だが、死亡事故は度々起きている。死亡事故調査・支援センター(一般社団法人 日本医療安全調査機構)に届けられた医療事故報告(2015年10 月~2020年4月)の中で、胸腔ドレナージに関連する死亡事例は10例。この状況を受けて同センターは、胸腔ドレナージによる死亡事例を分析、再発防止に向けた提言を2020年11月に公表した。

胸腔ドレーン取り扱い時の注意点について(PMDA医療安全情報No.60より)

 分析を担当した専門家の1人である元帝京大学ちば総合医療センター・救急集中治療センター長の福家伸夫名誉教授は、胸腔ドレナージのリスクについて次のように指摘する。

「胸腔ドレナージは、研修医の段階でマスターすべき基本的な手技とされていますが、決して簡単な処置ではありません。提言書を公表したのは事故が多いからで、キャリア10年以上の心臓外科医が失敗して患者を死亡させたケースもありました。胸腔内にある心臓や大血管などを胸腔ドレナージの時に損傷させてしまうと、瞬時にして致命的な状況に陥るリスクがあるからです」

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 また、「胸水」を抜くべきか否かの判断に関しても、専門性と経験が問われるという。

「胸水があれば、必ず抜かねばならないわけではありません。画像評価や血液ガスの値、患者の呼吸状態などから総合的に判断する必要があります。そして患者家族に十分な説明をして、同意を得ておくべきでしょう」(福家名誉教授)

「死亡事故調査・支援センター」は胸腔ドレナージの死亡事例を分析、再発防止策を提言していた(「胸腔穿刺に係る死亡事例の分析」より)

大学病院として若手医師の教育体制が欠落

 注意したいのは、担当した消化器外科医に、事故の全責任を押し付けるべきではないという点である。死亡事故の本質的な問題は、女子医大病院の安全体制や若手医師の教育体制、そして患者を無視した経営方針に内包されているからだ。

 福家名誉教授は、亡くなった男性が救急搬送された際の対応にまず問題があったと指摘する。

「急性腹症は、緊急手術が必要な疾患か、早急に診断しなくてはなりません。対応した若手医師が経験不足なら、消化器外科などのベテラン医師に相談すべきでしたが、入院措置で済ませていました。これは、大学病院として若手医師の教育体制が欠落しているからです」

 入院した翌朝、男性は急変して心停止したが、事前に察知する術もあったという。