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カテーテルが左肺を通り越して右側に突き抜けた…患者は帰らぬ人に

 ICUで男性が自発呼吸できるほどに回復したことから、消化器外科医は人工呼吸器を外すことを決める。この時、男性の左肺に「胸水」が溜まっていることが確認されたことから、消化器外科医が胸腔ドレナージを行う判断をした。

 胸腔ドレナージとは、胸の脇部分や背中から、カテーテルチューブや穿刺針(せんししん)を刺して、肺と胸壁の間に溜まった液体の「胸水」を抜く処置のことだ。局所麻酔で行うのが一般的で、「胸水」を抜くことで呼吸が楽になり、息切れの改善が期待できるという。

「胸水の解説図」胸水が溜まる付近には重要な臓器が多い(日本呼吸器学会HPより)

 ICUで消化器外科医は、「胸水」を抜くためのカテーテルチューブを入れた。この時、カテーテルは左肺を通り越して、右側に突き抜けてしまったという。完全なミスだ。これによって、大血管か臓器を損傷して、大量の出血が起きた。すると男性の血圧が急激に低下、ICUは一瞬にして修羅場と化したのである。

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 消化器外科医は、呼吸器外科に応援を要請して、男性をICUから同じフロアにある手術室へ移動させた。騒然とした手術室では、呼吸器外科が中心となって、大量の輸血や血腫の除去などが行われたが、すでに手の施しようがなかった。そして、男性は帰らぬ人となった。

「患者の命を甘くみている」

 2014年、女子医大病院のICUで当時2歳の孝祐くんが、鎮静薬プロポフォールを過剰投与されて亡くなる重大な事故が起きた。術後管理を担当した医師6人が書類送検され、そのうち2人が2021年に業務上過失致死罪で在宅起訴されている。

 孝祐くんの母親が、今回の死亡事故について重い口を開く。

「息子の事件が起きた後、第三者委員会が再発防止策として、ICUの体制見直しや小児ICUの新設を提言しましたが、今の経営陣が目先の利益のために全て壊してしまいました。患者の命を甘くみているのでしょう。亡くなった患者さんが可哀想です」

孝祐君(当時2歳)は、女子医大病院のICUで医療ミスによって亡くなった

 そして孝祐くんの父親は──。

「怒りが込み上げてきます。孝祐の事件を何も反省していないから、同じような死亡事故を繰り返すのではないですか。現場の医師だけに責任を押し付けるのは絶対にやめてもらいたい。こんな無責任な大学病院の経営者を、いつまでも放置している厚生労働省にも疑問を感じます」