――建築はもちろん、地図とはどういう必要があって作られるものなのか、地図と領土、地図と国家についていろいろ気づかされる内容で。さらには、地図に書かれた謎の場所、という魅力的なモチーフも出てきますね。
小川 僕も地図を調べているうちにハマっちゃって、地図に関する文献で手に入るものをいっぱい読み、「地図面白い!」となりました。
謎の場所については、地図の一番の魅力はそこにあるかなと思ったんです。アトランティスとかムー大陸とかエルドラドといった、人類が夢見た幻の島みたいなものっていっぱいあるんですよね。それで、作品の中で描きたいなと思いました。
戦争の「複雑さ」を描く
――書いているうちに登場人物もどんどん出てきて、という。
小川 そうですね。いろんな立場を書きたかったので、出す必要がある人をその都度出していきました。でも途中から出てくる須野明男はもともと出す予定でした。というのも、冒頭の1899年から登場している人たちは、終戦時に70歳とかになっちゃうんです。終戦時に30代くらいの若い人の視点があったほうがいろんなものが描けるような幅ができるので。
――日本人も中国人もロシア人も、いろんな立場の人が出てくるなかで、誰も英雄にしていないし、誰も悪の根源のようには書かれてませんね。
小川 第二次世界大戦って、誰か悪者がいて、その悪者が悪いことをしたから日本は戦争に負けたというようなシンプルなことじゃないですよね。悪者とされた人たちも、その人たちはその人たちで当時正しいと思うことをしていて、その正しいと思っていることがそもそもズレていたり、間違っていたり、あるいは気持ちの中に欲目があったりしたという、結構複雑な問題だと思います。自分も気づいたら悪いことをしているかもしれない、誰かを傷つけているかもしれないと思っていないと、本当の意味で戦争というものを考えることはできないので、そういう書き方になりました。
戦争に反対した人も、戦争を主導してしまった人も、それぞれの理屈がある。で、僕たちはどっちにもなりうる。だからこそすごく気を付けなきゃいけないと思っています。
SF要素を取り入れた理由
――書き始める時、SF要素は考えていましたか。
小川 考えてないです。でも担当編集が日和って、「ちょっとSFっぽい要素を入れてください」とか言ってきたんです。SF読者をとりこみたいってことで。それって日和ってますよね。でも、僕はその気持ちがよくわかるので、それで戦争構造学研究所がああいうかたちで出てきました。結果的に出してよかったです。
猪瀬直樹さんの『昭和16年夏の敗戦』に総力戦研究所とか模擬内閣というのが出てくるんです。それを頭において戦争構造学という架空の学問だったり、未来を予測しようとする試みだったりを書いたんですけれど、この小説を「SF小説です」というとかなり語弊がある可能性がある。そこは読んだ人が判断すると思うんですけれど。