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「この波に乗らないと沈んでいくだけだと思っています」AIが使えない人材を待ち受けている“末路”とは

ChatGPTのホントの話/深津貴之インタビュー #2

note

「乗るしかない、このビッグウェーブに」

――話は変わりますが、深津さんはすでに日常的にChatGPTを活用されていますよね。これほどAIに興味を持ったきっかけはなんだったのですか?

深津 去年のなかばあたりにStable Diffusion(編集部注:画像生成AI)が現れて、生成系AIのノウハウが全世界に開放されたのが大きなきっかけですね。僕のnote「世界変革の前夜は思ったより静か」でも書きましたが、これは「ゲームのルールが変わった」瞬間だと感じました。

 みんなが研究発表するばかりであまりサービスにせず、こっそり開発研究していた分野だったのに、Stable Diffusionがバーンと公開されちゃったおかげで、競合他社が色々なものをスピーディに公開せざるをえなくなったんですよ。ChatGPTもそれと同じ流れで公開されたものですね。まあそんな感じで、なんとなく去年の半ばから波がきそうな雰囲気が出ていたので、AI界隈を注視していたんです。

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――そうして得た知見を積極的に公開されているのも印象的です。

深津 梅田望夫さんが書いた『ウェブ進化論』という本のなかに羽生善治さんの「インターネットは知の高速道路だ(編集部注:先に行った人の舗装した道を、後から来る人は何倍もの速さで進めるという意)」という言葉が印象的で。僕はその価値観が好きで、知識はもったいぶらずに出してしまう方針です。

 あと、ノウハウは3年くらいで陳腐化しちゃうんで、隠したまま腐らせるぐらいなら業界での影響力を高めたり、世の中を面白くしたり、面白い人に会うカードに使ったりするほうがいいことあるんじゃないかなと思っています。

――「AI生成システムの波が去年の半ばからきそうな雰囲気があった」とのことでしたが、「波に乗らないとまずいぞ」という危機感もあったのでしょうか。

深津 危機感……あるいは100年に1度の産業革命が来るという山師的な勘というか……。そうしたらChatGPTがここまでの盛り上がりに。まさに「乗るしかない、このビッグウェーブに」という状況になっているんですよね。

積極的に知見を公開・共有する深津氏

――そんな大波が来ているChatGPTですが、AIによい感情を持たない人もいますよね。

深津 「よくわからんけど、なんか怖いぞ」という感覚を持つ人は絶対にいるはずです。言ってみれば「いま上手くいっているものを壊しに来る存在」ですからね。ただしこれはAIに限ったことではなく、すべての新技術は本質的に侵略者的なものだと思います。

 だから怖がる気持ちは、人として非常に自然な感覚だと思います。悪いことではないし、馬鹿にされることでもない。「俺が死ぬまで余計なことしないでくれ」という気持ちもわかります。

――とはいえお話をうかがっていると、今この瞬間からでも、AIチャットを使うかどうかで個人の生産性がかなり変わる気がします。

深津 乗るか乗らないかで言えば、この波に乗らないと沈んでいくだけだ、とは思います。今の状態を維持するためには走りつづけなきゃいけない。いわゆる「赤の女王仮説(編集部注:種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないことを指す)」みたいな感覚ですね。まわりの人には、とにかく今のうちから触るようにオススメしています。