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「宇宙戦艦ヤマトは戦争に負けた国でしか生まれない作品」

 1974年の初放映時から「ヤマト」の熱烈なファンである庵野秀明監督はかつて、「ヤマト」の特集本に「宇宙戦艦ヤマトは戦争に負けた国でしか生まれない作品だと思います」「当時の人々の第2次大戦、太平洋戦争に対する無念さ、口惜しさ、空しさ、哀しみ、怨念、そして願望等が塗り込められた作品だと思います」との言葉を寄せている。

「ヤマト」の核心には戦争への思い、特に松本氏がライフワークの「戦場まんが」で描き続けた、戦いの中で死んでいった若者たちへの悲しみ、そして陸軍航空隊の隊長として苦渋の体験をした父への思いがある。「ヤマト」が1970年代後半に社会的ムーブメントを引き起こした理由も、この作品が「敗戦のトラウマの克服と精神的自立」という戦後の日本人にとって、今も克服できない最大のテーマと不可分に結びついていることにあるのだ。

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「死んでいった者に顔向けできません」

「ヤマト」の物語は絶望的な状況から始まる。西暦2199年、地球は謎の異星人「ガミラス」からの侵略を受けていた。地球本土はガミラスの「遊星爆弾」による無差別核爆撃を受けて真っ赤に焼けただれ、地表の全生命は死滅。人類は地下都市で細々と生き延びているが、放射能汚染は地下深くまで浸透しつつあり、このままでは人類の絶滅まで後1年――。こうした状況が太平洋戦争末期、B29の無差別爆撃で焦土と化し、本土決戦を目前にした日本の姿と重なることは、言うまでもないだろう。

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 中でも、かつての日本の戦いぶりが象徴的に描かれるのが、松本氏が自ら絵コンテ(アニメ制作の要となる映像の設計図)を描いた第1話の冒頭、冥王星付近における地球防衛艦隊とガミラス艦隊との「宇宙海戦」シーンだ。太平洋戦争でのマリアナ沖海戦、レイテ沖海戦がそうだったように、地球防衛艦隊は彼我の圧倒的な戦力差、個々の艦の性能差により、苦戦を強いられる。後にヤマトの艦長となる指揮官・沖田十三は「このままでは全滅するだけだ」と撤退を決意するが、ミサイル艦「ゆきかぜ」の艦長で、主人公・古代進の兄でもある古代守は納得しない。「僕は嫌です。ここで逃げたら死んでいった者に顔向けできません」「男だったら戦って戦って戦い抜いて、一つでも多くの敵をやっつけて死ぬべきじゃあないんですか」と主張する。

 沖田は「明日のために今日の屈辱に耐えるんだ。それが男だ!」と懸命に説得するが、古代守は「沖田さん 僕はどうしても逃げるつもりになれません 見逃してください」との言葉と共に敵艦隊へと特攻同然の無謀な突入を図る。「ゆきかぜ」は集中砲火を浴びて戦線から離脱し、爆発してしまう――。

父親で日本陸軍パイロットだった松本強少佐の実体験

 実はこの場面、松本氏の父親で日本陸軍のパイロットだった松本強少佐の実体験と酷似しているのだ。強は1944年、戦闘機パイロットを養成する第32教育飛行隊の隊長に任命され、フィリピンのネグロス島に赴いた。本来、戦場とは離れた場所で行われるべき新人パイロットの育成を最前線で行ったのは、本土の燃料事情の逼迫、そして「半人前のパイロットが飛ばす旧式機でも、飛んでいれば現地住民への威圧ぐらいにはなる」という当時の日本軍の窮状がうかがわれる理由からだった。

太田啓之氏による本稿の全文《「鉄郎にかすり傷一つつけるな!」謎の“守護者”ハーロックの正体とは?》は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。