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アメリカで大谷が受け入れられる理由

「大谷は誰も文句を言えない成績を残しました。イチローも一世一代の才能がありましたが、パワーがないことを指摘する人もいました。バットにボールを当てるだけなら、誰にでもできることだと。大谷がアジア人研究のケースとして興味をそそるのは、彼の『長打力』です。大谷の体格は、アジア人男性が細くて非力だという偏見を打ち砕いている」

「私がイチローを好きな理由は、自分と同じように背があまり高くなくて細いからです。小さいアジア人が大男に立ち向かう姿に奮い立たされる。ただし、同時にアジア人が『華奢』だという偏見を助長している面も否定できません。アジア人は、(内野安打など)『ずる賢い』ことをしなければ成功できないのだと」

 前出のファンたちが口にしたような大谷の立ち振る舞いも、アメリカで大谷が受け入れられる理由だという。

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「イチローもそうですが、対戦相手や野球というスポーツに非常に敬意を払う。大谷の不満な表情を見たことがありません。いつも冷静で、他人のせいにしたりしない。アメリカでは、子供ですらグラブを地面に投げつけるのに。そんな彼を嫌いだという人は少ないでしょう」

 ESPNのスティーブン・A・スミスの発言も、アメリカの人種差別が根深いことを示すとリー教授は言う。問題となったスミスの発言はこうだ。

「この男(大谷)が特別なのは間違いない。でも、英語を話せなくて通訳が必要な外国人が興行の目玉だということは、信じないかもしれないけど、野球にとってちょっと悪影響だと思う。ブライス・ハーパーやマイク・トラウトのような選手じゃなきゃダメだ」

©文藝春秋

最大の貢献は、グラウンドで圧倒的なプレーを見せること

 英語が幅広く使われているが、多民族国家のアメリカには法で定められた「公用語」はない。そのアメリカで「英語を使え」と強要するのは、他文化の否定や外国人嫌悪に他ならない、とリー教授は言う。たまにスペイン語など英語以外で会話している人に、「英語を話せ」「この国から出ていけ」と文句を言う人がいてニュースになる。

 2021年8月のエンゼルス対タイガース戦では、テレビ解説を務めていた通算254勝投手のジャック・モリスが、打者・大谷の対策を聞かれた際に、アジア人のアクセントを真似るように「とにかく注意すべき」と発言して問題となった。

「悪意のないジョークのつもりだったのでしょうが、これもアジア人が『英語を話せない』『外国人』だという偏見を助長するものです」とリー教授。

 大谷と同年代の大坂なおみは、アジア人や黒人、女性への差別に対して積極的に意見を発信し、アメリカでは活動家としても評価されるようになった。しかし、大谷にその役割を求めるのは酷だとリー教授は言う。

「人は長所を生かすべきというのが私の考えです。政治や社会活動が得意な人もいますが、そうでない人もいます。全てに秀でているなんて無理な話です。大谷は声を上げるタイプのアスリートには見えません。彼の最大の貢献は、グラウンドで圧倒的なプレーを見せること。それがアジア人に勇気や希望を与えます」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。