1ページ目から読む
3/4ページ目

「翔平の二刀流は素晴らしいことだと思います。二刀流ができる可能性を持った若い選手はたくさんいると思います。でも前例がなかったので、試すことすら避けられてきた。でも翔平ができることを証明したので、もっと挑戦する選手が出てくると思います」

アジア系住民の地位向上に貢献

 日本でも大きく報じられたが、アメリカではここ数年、アジア系住民に対する差別や暴力が社会問題になっている。特に中国で最初に発見された新型コロナウイルスの流行で、偏見が助長された。

 アジア系住民の多いオレンジ郡でも、それまではアジア人が差別を受けたという報告は年4、5件程度だったが、2020年には76件に急増した。

ADVERTISEMENT

 大谷の活躍は、そんなアメリカでアジア系住民の地位向上に貢献するのではないかと期待する専門家もいる。

「大谷は、アジア人であることが『クール(格好いい)』だと思わせてくれる」とカリフォルニア大学アーバイン校でアジア研究を教えるジェリー・ウォン・リー教授は言う。自身も韓国系2世で、大の野球ファンである。

©文藝春秋

『アジア人でもスターになれる』という認識が当たり前に

 アメリカの歴史を通して、アジア系アメリカ人は「異質」「エキゾチック」な存在として見られてきた。アメリカで生まれ育ったにもかかわらず、見た目だけで「外国人」のように扱われてきたのだ。私の経験からも、アジア人に「非力」「頼りない」「何を考えているか分からない」といった偏見を持つアメリカ人は多いと感じる。そのため、多くの人が、なるべく「アジア」の部分を隠して、白人社会に溶け込もうとしてきた。

「アジア系アメリカ人は、あまりアジアのルーツに誇りを持てていませんでした」とリー教授。「でも、大谷のように野球の実力だけでなく人格も優れているロールモデルを見て育つ若い世代は、そう感じないで済みます。同じアジア人として自分と重ねてみて、誇りを感じられるからです。『アジア人でもスターになれるんだ』という認識が当たり前になる。私の世代には、そういう存在がいませんでした」

 大谷が特別なのは、野球というアメリカの4大スポーツで、「誰もが認める一番の選手」になったことだとリー教授は言う。