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「売る」という判断が出来ずに実家を「放置プレイ」

 今後の不動産市場を考えるならば、特に郊外ニュータウンなどにある親の家は早期に売却しないと、永遠に相続人の手から離れない存在になる可能性が高い。

 ところが、親の家というのは意外とやっかいなものだ。兄弟姉妹で相続し、持ち分を共有で持っていたりすると、売ろうという決断ができなくなりがちなのだ。「親の想い」が詰まった家であっても相続した子供たちは使うあてもなく、さりとて賃貸に出しても借り手もいない。そんな家でも、兄弟姉妹間では結局「売る」という判断ができないままズルズルと家は放置プレイ状態に置かれる。

荒れ果てたゴーストタウンで起こること

 しかし、このドラマはこれで終わりではない。おそらくもう数年もたつと、この家のあるエリアのほとんどで相続が発生する。エリア内を歩いても人っ子ひとりいないゴーストタウンとなり、管理が行き届かない家は草木が生い茂りエリア全体がスラムのようになっていく。こうなるとさらに家は売れなくなる。廃墟の群れに変わり果てるだけだ。

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 そして、相続した子供たち自身もやがて亡くなり、家は彼らの子供へと否応なしに引き継がれていく。この頃になると相続人である子供も親が残した厄介ものの家に関心を示さなくなる。それどころか相続したことを登記すらしなくなる。この繰り返しを経て、親の家はやがて「所有者不明土地」となっていくのである。

 すでに地方のぼろぼろになった空き家は、所有者がわからなくなった家が大半を占め、自治体が行政代執行で空き家を取り壊しても、その解体費を請求する相手がわからないといった事態が頻発しているという。

 こうした状況は地方だけの問題ではなく、今後時間の経過とともに確実に首都圏郊外などでも深刻な問題となってくることが予想される。

「所有者不明」はマンションでも大問題に

 所有者不明土地問題は土地だけの問題ではない。全く同じ状況はマンションでも発生する。マンションがやっかいなのは、マンションは区分所有者によって一棟の建物を所有していることだ。老朽化した一部のマンションでは、相続が発生したことを相続人が管理組合に届けずに、管理費や修繕積立金の滞納が始まり、請求しようにも相続人が誰であるのか皆目わからないなどといった事態がすでに生じ始めている。

 管理費の滞納や修繕積立金の不足は、マンションの資産価値に影響を与え、所有者全体の問題として降りかかってくる。

「所有者不明」問題は土地だけでなく、マンションでも深刻な事態を引き起こす ©iStock.com

 不動産バブル再来などという景気の良い話がある裏側で、まったく誰のものかがわからない「名無しの権兵衛」不動産がむくむくと成長している。しかるべき対策を取らない限り、不動産がゴミのように放置され、誰もが見向きもしない所有者不明土地が社会の発展を阻害し、やがては美しい国土を荒廃させていく元凶となる日がやってくるのだ。