日本国内に九州の面積を上回る410万ヘクタールもの大量の所有者不明土地がある──。2017年12月に一般財団法人国土計画協会の研究グループ「所有者不明土地問題研究会」(座長・増田寛也東京大学公共政策大学院客員教授)が発表した最終報告は衝撃的なものだった。このまま何らの政策を講じずに放置するならば、所有者不明土地は増加を続け、やがては北海道全土の土地に匹敵する面積となって多くの問題を引き起こすだろうという指摘は、日本社会に大いなる警鐘を鳴らした。
不動産は実需に裏打ちされた「役に立つ」ものもあれば、投資マネーの思惑に翻弄されながら価格の上下動を激しく繰り返していく「金融商品」のような不動産もある。そして、今問題となっているのが、誰も見向きもしなくなった「打ち捨てられた」不動産が世の中に蔓延(はびこ)りだしていることだ。
多くの相続人が登記をせずに放置する理由
これらの土地は、相続の際に登記をされてこなかったために時間の経過とともに権利が分散し、真の所有者が誰であるかわからなくなっている。数十年も遡れば登記した形跡があるものの現在の所有者が誰であるかは不明といった登記簿も、現実にはたくさん存在しているのだ。この原因は不動産の登記が義務ではなく、あくまでも第三者対抗要件といって、他人に対して自分が不動産を所有していることの表明を自発的に行っているのに過ぎないことにある。
登記にあたっては登録免許税などの税金も課税されるため、価値のある不動産ならまだしも、親から引き継いだ地方の山林や畑などは、多くの相続人が登記をせずに放置しているのが実態だ。
研究会の報告では、所有者不明土地が引き起こす問題として、道路の拡張などの公共工事を行う際、対象となる土地の所有者全員の同意を得るのに所有者を完全に把握できないこと、震災復興で高台住宅を開発しようにも候補地の所有者がわからずに同意が得られないこと、崖崩れ防止工事を行う際に裏山の所有者が不明で手が付けられないことなど、具体的な事例をあげて問題の深刻さを指摘している。
多死社会、大量相続時代の到来
しかし、日本の将来を考えるとこの所有者不明土地の問題は公共工事だけの問題ではなくなってきそうだ。これからの日本で確実に起こる「多死社会、大量相続時代」は所有者不明土地の拡大につながり、不動産市場に大きな影響を及ぼすものと想定されるからだ。つまり、これまでの人口が増加する、あるいは都市部へ集中する、そして経済成長が続くという環境のもとで、実需に基づき価格形成が行われてきた不動産市場が、今後は機能しなくなり、社会で取り残される家が大量発生することが見込まれているのだ。
空き家は、今後首都圏郊外を中心に団塊世代の相続が大量発生することが予想される。団塊ジュニアは相続した郊外部の家の処理に困り、空き家のまま放置せざるを得なくなる状態に追い込まれる。家は放置しても、固定資産税などの税金の負担を余儀なくされる。またしばらく放置状態を続けると木造家屋は急速に傷み始める。敷地内は雑草が生い茂り、樹木は枝を伸ばして隣家との境界を平気で跨いでいく。