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巨人期待のルーキー・門脇誠を男手ひとつで育てた父が語る「子育てとは“水たまり”をどう越えるか」

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/06/06
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近所の方々が誠を育ててくれた

 私は人生の軸を「仕事」ではなく、「家族」に置いていました。そうすると、おのずと働き方が変わってきます。つまり「仕事を早く終わらせる段取り」に専心できるようになります。

 何かプロジェクトが立ち上がる時は、積極的にリーダーに立候補していました。リーダーになれば責任は生まれますが、自分の時間が確保できるからです。家族を最優先しながら、やりがいのある仕事もできる。満足度の高い生活を送れたように感じます。

 また、保育園の保護者会長も務めました。おかげで保育園との関係性が深くなり、自分たちの家庭を理解してもらいやすくなりました。お世話になった園長先生とは今も連絡を取り合う仲です。

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 保育園の保護者やご近所の方々にも助けていただきました。私がどうしても仕事で外せない時は子どもを預かってもらい、逆に夏休みには友達を8人ほど預かって3泊4日のお泊まり会を催すこともありました。

 一人親はハンデではありません。一方的にお願いするだけでなく、「お互いさま」の関係性を築くことが大切だと学びました。誠は私が育てたのではなく、近所の方々に育ててもらったようなものです。

 なので、今はプロ野球選手になった誠を応援してくれる人がたくさんいます。保育園時代の同級生や保護者のみなさんが「誠の応援に行ってきました」「本当にあの誠なんですよね?」「こんなに大きくなったのね」と温かい目線で応援してくれる。それは誠にとっても大きなパワーになっているはずです。

 そして、私自身も関係性を築いた方々のご縁で転職し、今は野球用品を営業する仕事に就いています。親子そろって野球に携わるようになるとは、想像すらしていませんでした。

幼少期の誠 ©門脇寿光

子育ては「水たまり」?

 誠には、反抗期らしい反抗期はありませんでした。私がバッティングについ口出ししてしまっても、誠は「また始まった」と言いたげな顔をしながらも歯向かうことはありませんでした。おそらく彼のほうが大人だったのでしょうね。私もこれではまずいと思い、自宅の庭で練習する時はマンツーマンではなく、誠の友達を呼んで怒らない環境をつくりました。

 誠にとっては口うるさい父親だったでしょうが、ひとつだけ胸を張れることがあります。それは人生の選択はすべて子どもの意志を尊重したことです。情報を集めて子どもに提示し、「どうしたいのか?」「どうなりたいのか?」とコミュニケーションを重ねたうえで、結論は本人に任せました。

 私は、子育ては「水たまり」に似ていると感じます。目の前の水たまりを越えるために、どうすべきか。大人が先に飛んで見本を見せる。右足から飛ぶ。両足で飛ぶ。飛ばずに回り込む。いろんな方法がありますが、目的を果たせればどれも正解です。

 子どもに教え込みすぎず、自分なりの方法で水たまりを越える術を身につけさせる。これが大事なのではないかと考えています。

 誠が15歳にして実家を離れ、東京の創価高校に進んだ時。保護者会の集まりがあったため、私が奈良から上京しました。久しぶりに私の車の助手席に乗り込んだ誠は、「はぁ……」と大きなため息を吐いて、こうつぶやきました。

「落ち着くわ……」

 ひどく疲れている様子でした。数十分のつかの間のドライブでしたが、誠は気持ちよさそうに眠りこけていました。まだ高校1年生とはいえ、張り詰めた緊張感のなかで大きな水たまりを越えようと戦っているのだなと感じました。

 そしていま、誠はプロ野球という厳しい競争社会で史上最大級の水たまりを越えようとしています。私は門脇誠の応援団長として、その戦いを見守っていきます。

 これからも誠の応援をよろしくお願いいたします!

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