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「切羽詰まって連絡をくれているのだから、そのときに支えてあげないと悩みや苦しみが広がっちゃうでしょう。だから、どんなに忙しくても話を聞いて、安心してもらってから、じゃあいつ会おうか、と調整していました。『今はダメ』ってすぐ電話を切るようなことは絶対しません」

「更生カレー」と呼ばれる中澤さんの手作りカレー

中澤さんの助言がきっかけでプロレスラーに

 ほかに中澤さんが心掛けていたのは、対象者が「行きたい」と言えば、よろこんで自宅に招き入れていたこと。外部の面談スペースで話を聞くこともできたが、家にあげることで、「君を受け入れますよ」という気持ちを伝えていたのだ。そして、おなかが減っているという子には、手作りのカレーを振舞った。給食で出るような懐かしい味で、食べ盛りの少年が満足するように、大きめの肉とジャガイモがゴロゴロ入った一杯だ。

 中澤さんの助言がきっかけで、天職に出会った暴走族の少年もいる。暴れん坊の彼は、駅前にたむろしながら、よく仲間たちにプロレス技をかけていた。そんな彼の闘争心や腕っぷしの強さを、何かいい方向に生かせないかと考え、「プロレスやったら?」と提案したのだ。

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 本人も乗り気で、道場に入門し、何と本当にプロレスラーとしてデビュー。中澤さんは暴走族の仲間たちと試合を観に行き、「行けー!」とこぶしを突き上げたのだそう。ちなみにその元少年は、中澤さんの推薦で保護司にもなっている。元少年の「初めてきちんと関わってくれた大人は、親でも先生でもなく中澤さん」という言葉に、中澤さんへの絶大な信頼がうかがえた。

良い子も普通の子も「ちょっと悪い子」も集まる「カレー会」

保護観察期間が終わった後も続く付き合い

 少女の対象者もいた。家族から縁を切られている彼女は、保護観察期間が終わった後、行き場がなかったのか、歌舞伎町の風俗で働くようになった。心配した中澤さんが連絡をしても、やましさがあるからか、「会いたくない」という。そこで歌舞伎町まで行き、「近くの喫茶店で待ってるね。来なかったらお店に行って指名しちゃうから」とユーモアを交えて呼び出し、悩みを聞いたのだった。それからも恋愛相談などを受けていくうちに信頼関係を築き、数年後に元少女は結婚。結婚式に呼ばれた中澤さんは、少々派手な女友達たちに囲まれて、幸せそうな元少女を眺めながら、感慨深く目を細めたのだった。