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 60代の対象者を担当したこともある。元ヤクザの男性で、窃盗などの軽犯罪を繰り返し、何度も刑務所に出入りしていた人だ。彼は中澤さんの温かさに惚れこみ、「もう犯罪は最後にします」と宣言。そして後日、ワインを送ってきた。「そんなことしないでいい」と連絡した中澤さんに、男性は真意を明かしたという。

「社会にいる証だから受け取ってください、って言うの。再犯をしていないですよ、ってことなのね。それから20年以上、毎年ワインを送り続けてくれるんですよ」

すべての対象者を更生に導けたわけではない

 大人になった対象者の元少年たちが、温泉旅行に連れていってくれたこともある。保護司を引退するときは、サプライズで慰労会を開いてくれた。彼らからの「あんな悪ガキだった自分に、面倒くさがらず関わってくれてありがとうございます」といった感謝の言葉は、宝物となって中澤さんの心に残っている。

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 ただし、すべての対象者を更生に導けたわけではない。音信不通になってしまった人がいれば、再び犯罪に手を染めてしまった人もいる。更生できたとしても、全員が幸せになっているとは限らない。最後に担当した元少年は、「中澤さんが最後に保護観察してくれたんだから、俺はちゃんとやりますね」と、バーテンダーとして働き始めたが、酔ってビルの5階から転落。脊髄を損傷し、現在も闘病中だ。

元対象者たちとの思い出は数えきれない

保護司を引退しても、「中澤照子」として人々に寄り添う

 社会復帰して仕事も家族も手に入れたが、心を病み、自ら命を絶ってしまった元少年もいる。「歴史が好きな子でね。『中澤さん、今度お城を見に行きましょう』って言ってたのに」と中澤さんは回想して唇を噛む。

 それでも、中澤さんと出会った元少年・少女の多くが、大人になった今、元気に過ごしている。保護司を引退しても彼らと交流できる場があればと、中澤さんは2018年に「カフェLaLaLa」をオープンした。お店には元対象者をはじめ、更生保護関連の人や学生、地域住民など、“良い子も普通の子もちょっと悪い子も”集まるという。

 保護司としての役割は終わっても、「中澤照子」として人々に寄り添い、見守り続けていく生き方は変わらないのだ。

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