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 あのドラマの主人公のように、利益度外視で献身的に診療を続ける僻村の診療所に、強制的にマイナ保険証を導入させたら、医者も戸惑うし、患者も戸惑うことでしょう。結果、マイナ保険証に対応できない医者が廃業し、無医村が増える可能性があります。

「新マイナンバーカード」という新たな問題も

 世界に冠たる日本の医療を末端で支えているのは、こうした僻村で患者の治療にあたっている医師たちです。コトー先生のような医者がいるからこそ、日本では「誰一人取り残さない」という、世界でも奇跡的な医療が実現しているのです。

 ただでさえ医師の絶対数が不足している地域医療での現場で、ベテランの医師が次々と廃業していくというのは、日本の医療制度にとって大きな損失ではないでしょうか。

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 そんな中で、さらに愕然とするような話が出てきています。政府は、2026年にもセキュリティーを強化した「新マイナンバーカード」を導入する方針を公表しました。

 これについて、立憲民主党の長妻昭議員が「3年後に新しいカードができても、今のカードリーダーは使えるのか」と質問したところ、河野太郎デジタル大臣は「新しい読み取り機が必要になる可能性は当然、ある」と答えたのです。

 新しいカードリーダーの導入が義務化され、ますます負担が大きくなるとしたら、さらに脱落せざるを得ない人が増えていくことでしょう。ただでさえ、彼らはいまもギリギリのところで踏ん張っているのですから。

 岸田首相は「誰一人取り残さない」社会の実現を目標に掲げていますが、マイナ保険証の義務化はその流れを阻むものではないでしょうか。

マイナ保険証の罠 (文春新書)

荻原 博子

文藝春秋

2023年8月18日 発売