文春オンライン
「42年間、見事に忘れ続けていました」元NHK記者が明かす、ジャニーズ犠牲者と“なかったこと“にした性被害体験

「42年間、見事に忘れ続けていました」元NHK記者が明かす、ジャニーズ犠牲者と“なかったこと“にした性被害体験

2023/11/24

genre : ライフ, 社会

note

1学年の違いが大きな差を生む年頃

 この時期の1学年の違いは体格に相当の格差があります。中学に入ったばかりの1年生はまだ幼い体型。それが2年生になるとかなり成長します。人により年間で10センチ以上身長が伸びます。一般的に中1男子は中2男子に体力でかなわないのです。そして体が成長するほどには心の成長はついていきません。体は大人、心は子どもの状態が生じます。そういう状態で1年上の先輩を押しのける力は僕にはありませんでした。

寮で同級生たちと相澤氏(右)

もうこの人には何をされてもしょうがない……

 こうなると同じベッドの上下だけに逃げ場がありません。いっぺん“襲った”ことが既成事実になると相手は繰り返し襲ってきました。「もうこいつは俺のもの」という感覚でしょうか。そして僕の方にも「もうこの人には何をされてもしょうがない」という不思議なあきらめのような感覚が生まれていました。

 今の私なら「それはストックホルム症候群(誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象)と言ってね……」とあの頃の僕に説明してあげるのですが、もちろん当時そんな知識はありません。そもそもストックホルム症候群の名の由来になった事件から、この時まだ2年しかたっていません。もしかしたらまだその言葉がなかったかもしれません。

ADVERTISEMENT

 でもやはり“嫌なものは嫌”だったんです。だから2学期になって寮内で部屋替えがあり、先輩と別の部屋になって僕は「これで解放される」とほっとしました。

 ところがその先輩は別の部屋まで襲ってきたのです。この時、僕は相当激しく抵抗し、ついに先輩を押し返しました。わずか数か月でも成長が著しい時期ですから、そのおかげで襲撃をはね返す体力がついていたのでしょう。以後、先輩は二度と襲ってくることはありませんでした。自分の力で相手を支配できなくなったと悟ったからかもしれません。

すべてを“なかったこと”に

 こうして逃げ場のない“地獄”の日々は終わりました。でも僕は、自分の身に起きた恐ろしい出来事をどう受け止めたらいいのかわかりませんでした。

 被害を受けた際に僕が取り得る対処は2つありました。

(1)大人(親や教師など)に相談する

 

(2)寮を出る。あるいは学校をやめてしまう

 私立中学をやめても地元の公立中学に編入することができます。でも僕はこうした対処をしませんでした。その理由を今考えてみると、まず(1)は、相談しなかったというよりできなかったのでしょう。自分の身に起きたことが余りに怖ろしすぎると、恐怖に圧倒されて何も言えなくなってしまいます。