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 翌9日付東京日日(東日=現毎日新聞)は「一昨日、警視第二局長から各警察署長への内示によれば、賊は多少負傷していると考えられることから、開業医についても十分注意しておくべきだという」とあり、2つは同じことを指しているのか。

 東日の同じ紙面には「ミセス・ラージ女史の来翰(らいかん=届いた手紙)」の見出しの記事が。イライザが「種々のご高配に感謝申し上げる」と日本のメディアを代表して東日に書簡を寄せたらしい。「事務的才能に優れている」ことがうかがえる。

イライザからの謝礼書簡が掲載された東京日日

「日本は野蛮国ではない」と強調

 4月9日付読売は社会面トップで「鳥居坂の兇変に付当局者の心配」という記事を載せた。

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 このたびの凶変がもし20年の昔に起きていたら、外国政府は兵と艦艇で日本海に入り、強く談判して賠償金を請求していただろうが、外交の道が開けた今日では、このことが外国との交渉事件となるべきはずはない。ゆえに外務省の職務としては別に面倒なこともなく、外交に関係することはもちろんないが、一つ心配なことはラージ氏が宣教師であることだ。

 

 氏の本国の教会がこの変事を知れば、宣教師らは布教や献金集めのため土地の老若男女に「日本人はわが教会の宣教師を殺した。そのような殺伐として危険な国に教師を派遣している熱心に感じて、応分の喜捨をすべきだ」などと哀れげに演説して感動させることは必然。つまりは、日本人をよく知らない人々が日本を見るのに、野蛮で無知なアメリカ人のようだとして、条約改正の件にも影響を及ぼさないとは保証できないと当局者は心配しているという。

 回りくどい説明だが、言いたいことは分かる。しかし、本当に外交問題にはならないと見ていたのだろうか。郵便報知は4月9日の社説「外人の横死を悼む」で事件を取り上げ、幕末維新に外国人を排斥したのとは全く違って、「ラージ氏の境遇は決して身を野蛮の境に没したるにあらず」と日本は野蛮国ではないことを強調。読売も10日の社説で同様の主張をしたが、その中では「条約改正にも影響を及ぼすことがないかと気遣う者もあり……」と記した。

郵便報知の社説で事件が取り上げられた。見出しは「外人の横死を悼む」

「条約改正にも影響する事件として政府も重大視していた」

 幕末に江戸幕府が諸外国と結んだ条約は治外法権、協定関税率制度、最恵国待遇など屈辱的に不平等な内容で、明治維新後、改正を求める動きが続いた。促進のため井上馨外相を中心に鹿鳴館に代表される欧化政策がとられ、日本でのキリスト教はそれによって布教を拡大。ミッションスクールも勢いを増した経緯がある。

 しかし、内外の情勢もあって交渉は遅々として進まず、この事件前年の1889(明治22)年には、内閣が進める改正交渉が「亡国的」として大隈重信外相が爆弾を投げつけられて負傷する事件も起きていた。影響が危惧されたのは当然だろう。

 警視庁の正史である『警視庁史第1(明治編)』も「事件は、日本警察の国際的信用の上からも、また、当時問題になっていた条約改正にも影響する事件として、政府においても重大視していた」と書いている。

 時事新報の第一報でも警視庁と外務省が頻繁に連絡を取っていたことが分かるが、「裁判医学雑誌」1890年4月号は事件を取り上げた中で「赤羽外務大臣秘書官は司法省へ出頭。箕作次官及びその他と協議せられ……」と書いている。