皆が逃げ出す「泥船政権」
浜田は国防族の大物で与野党に広い人脈を持つが、毎日2回の記者会見で政策万般に関して説明しなければならない官房長官に適任とは言い難い。今や岸田が唯一、頼みとする麻生の推薦だったにせよ、追い詰められた岸田の人選ミスは明らかだった。茂木派の前厚生労働相・加藤勝信にも断られ、結局は岸田派の前外相・林芳正に落ち着いた。
麻生は親中派の林を嫌っており、起用に難色を示したが、他に火中の栗を拾う議員はいなかった。固辞した浜田に他意はなかったにせよ、岸田政権が最早、誰も乗りたがらない泥船だと知らしめる結果になった。
安倍派切り人事後の毎日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は16%と続落した。不支持率も79%に及んだ。世論も、岸田が9月までの総裁任期中に支持を回復し、衆院解散・総選挙に打って出るチャンスがあるとはみていないのだ。
岸田は人事に先立つ記者会見で、2024年度予算成立後に内閣総辞職する可能性と9月の総裁選出馬の意向を問われ、珍しく率直に「今は先のことを考えている余裕はない」と語った。だが、党内の関心はすでに「先のこと」のみ。すなわち岸田退陣のシナリオ、ポスト岸田の顔ぶれに向かっている。
まずは岸田がいつ、どのように辞めるのかだ。1月下旬に通常国会が召集された後、少なくとも24年度予算が成立する3月下旬までは続投してもらわなければならない。それ以前に岸田が職を投げ出せば、予算案の審議は中断され、年度内の予算成立は難しくなる。4月以降の国民生活や地方行政に大きく影響し、自民党への逆風はさらに強まる。
岸田も3月末に見込まれる税制関連法案の成立は是が非でもやり遂げたい。内閣支持率を急落させてまで決めた所得税、住民税の定額減税を盛り込んでいるからだ。米大統領バイデンから国賓待遇を受ける、春の訪米にも強くこだわる。
いま直ちに党内で「岸田降ろし」の動きが起きないのは、こうした事情からだ。同時に「4月に花道を作れるかどうかだ」(閣僚経験者)との声がじわじわ広がっている。逆に言えば、3月末の予算成立後も岸田が自ら身を処す素振りを見せなければ、辞任論が一気に噴き出す。