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「角栄さんがお気の毒だった、と裁判官が語った」「取材相手から“遺言”を託された」都心書店で7週連続売上1位、話題の書『ロッキード』で真山仁が踏み込んだ「危険な領域」

真山仁『ロッキード』インタビュー(2)

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都心の大型書店で、異例の7週連続売上1位を記録

 丸善丸の内本店と丸善日本橋店という都心の大型書店2店舗で、2023年の12月第1週から2024年1月第3週まで7週連続文庫売上1位を記録した『ロッキード』(文春文庫、1300円+税)。

「ハゲタカ」シリーズをはじめ、社会派の骨太なエンターテインメントを書き続けている小説家・真山仁さんが手掛けた初のノンフィクション作品で、田中角栄元総理が逮捕され、有罪判決を受けた政治疑獄・ロッキード事件の真相に迫った大著が、異例のロングヒットとなっています。

単行本と合わせて6万部を突破、分厚い本だがベストセラーに

 書店員の声とともに真山さんにお話を伺った前回につづき、真山さんがこの力作に込めた思いや取材秘話・続編をお届けします。

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なぜ田中角栄は「まー、そのー」と言い、扇子をバタバタさせていたのか

――そもそも真山さんは、田中角栄という政治家はお好きだったのでしょうか。

真山 逮捕された時は中学生でしたが、正直にいえば好きではありませんでした。叩き上げの人特有のギラギラ感が苦手でしたし、ロッキード事件で政治の表舞台から下りたあとも、永田町で絶大な権力を持ち続けているような、闇将軍的なイメージを持っていました。

 ところが、執筆にあたって調べはじめると、角栄さんが幼い頃から吃音で悩んでいたことを知りました。

 実は私もこどもの頃、吃音に苦しめられました。

 角栄さんが話す時に「まー、そのー」と一拍置いたり、扇子をしきりにバタバタさせたりしていたのは、吃音の症状が出ないように呼吸を整えていたのだとわかって、実はすごくナイーブな人なのではないか、と認識を改めました。

角栄は本当に「金権政治家」だったのか?

――本では第1部の第2章「政治の天才の誕生」と第3章「金権政治家の烙印」をまるまる割いて、田中角栄の政治家としての足跡、そして逮捕までの日々を克明に綴っています。特に第3章では、角栄のお金との関わり、金権政治家というイメージの実像に迫っていますね。

真山 一つ心に留めておくべきことは、角栄のところには確かにお金がたくさん集まっていたけれど、彼自身はあまり懐に入れていなかったのではないか、ということです。

 元毎日新聞の政治部記者で、当時の宏池会などに深く食い込んでいた西山太吉さんに話を伺いましたが、「田中角栄という人の集金力はたしかにすごかった。でも、それを懐にしまうタイプではなく、集めた金をすぐ使っていた」というのです。

 当時は、政治家個人が受けた献金は届出義務がなく、企業からの献金を受けることも公に認められていた。帳簿に記載されない裏金も含めて、おそらく与党議員は角栄に限らず誰もがお金をためることができたはずです。西山さんは「角栄はそのお金を、自民党の自派閥議員にはもちろん、他派閥の議員にも、さらには当時の公明党をはじめとした野党にも『困ったら使え』と渡していた」と話していました。

 角栄さんは官僚出身でもないし、学閥も閨閥も持ち合わせていない。そんな中政界でのし上がるために、莫大なお金を使っていたことは確かでしょう。ただ、それで豪奢な生活を極めていた、というわけではない。先日燃えてしまった目白の大邸宅にはたしかに住んでいたけれど、私腹を肥やすという言葉とは遠い存在だったのではないか、と考えています。

右手を軽く挙げる、田中角栄お得意のポーズ                      ©文藝春秋

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