この鹿を人間の世界にもたらすのはユカッテカムイ「鹿を下ろすカムイ」と呼ばれるカムイで、天界にいることになっています。アシㇼパも「ユㇰは『鹿を司る神様』が地上にばら蒔くものだと考えた」と言っています。このカムイは天界で大きな袋の中に鹿の尻尾だの角だのを貯えていて、それを地上に撒くと鹿の姿になって野山を走り回るのだそうです。このユカッテカムイと後で触れるチェパッテカムイの正体は今ひとつわかっていません。
鳥と狩猟の関係
ただ、天界にいるということからして、空を飛ぶもの――つまり鳥ではないかと思われます。地域によってはヌサ「外の祭壇」に狩猟のカムイが祀られています。ハシナウという枝付きのイナウを特別に捧げられるカムイなのですが、これも鳥だと言われています。22巻219話では、ヴァシリがチャㇰチャㇰカムイ「ミソサザイ」をスケッチしている場面が出てきます。
それを見ていたアシㇼパは、「もし熊が近くにいればチャㇰチャㇰ鳴いて熊のところに案内しようとするのに」と言って、「熊がいる」という松田平太の言葉に疑問を示します。また、4巻35話では、エゾフクロウについて「夜にこの鳥が鳴いた方向を追いかけると必ず羆がいる」と説明しています。
このように、鳥というのは狩猟の成否に深い結びつきがあるようです。
カムイが陸に住む者たちのために授けてくれた“鮭”
鮭もまた、アイヌにとって主食とも言うべきものでした。13巻125話でキロランケは、「鮭は鹿と同じようにそれ自身がカムイではなく、天上のカムイの袋の中に入っていて、海にバラ撒かれるものなのさ」と、谷垣に説明しています。秋になると魔法のように海の向こうから現れて、大群となって川をさかのぼってくる鮭は、それこそカムイが陸に住む者たちのために授けてくれた、おおいなる恩恵ととらえたのでしょう。