「黒は女を美しく見せるんだから」
一方、おソノは、パーティーに着ていく服がないとためらうキキに対して「あら、そんなこと気にしてるの? それとってもいいよ、黒は女を美しく見せるんだから」と声をかける。結論は同じ「黒い服」なのだが、おソノのほうは、“話の分かる親戚のおねえさん”のような距離感なのだ。
(2)絵描きのウルスラ
一方、森の中の小屋に住んでいる絵描きのウルスラは、キキにとってすぐ上の“先輩”といった存在だ。映画はキキの「空を飛べること」とウルスラの「絵を描くことができること」を重ね合わせ、悩むキキのちょっとだけ先を歩いている人物としてウルスラを描く。
キキとウルスラの声は同じ声優が演じている
そんなウルスラだからこそキキは、素直に悩みを打ち明けることができる。ウルスラの小屋で、ランプの灯りに照らされながら語り合うふたり。学生時代に、先輩や友達の部屋でそんなふうに悩みを語り合った経験を持っている人も多いのではないだろうか。
ウルスラは、キキとダブルキャストで高山みなみが演じている。この配役によって、ふたりが似たような道を歩いている先輩後輩であることが、自然と浮かび上がってくる。
(3)お屋敷に住む老婦人
先輩はいても、ひとりでコリコの町に来たキキには同年代の友達がいない。思春期特有の自意識の強さも加わって、キキは、偶然知り合った少年・トンボの友達の女の子たちと、打ち解けることができない。
そんなキキにとって、友達と呼べる関係性を結ぶことになるのが、大きなお屋敷に住む老婦人だ。
年齢を超えた友情の始まり
お届け物を受け取りにお屋敷を訪れたキキは、老婦人からオーブンが故障してしまったと聞いて、薪のオーブンを使うことを提案する。手際よく薪のオーブンの準備を始めるキキ。
その様子を見た老婦人は「お母さまのお仕込みがいいのね、段取りがいいわ。なんかワクワクするわねぇ」と笑みを浮かべる。老婦人は「空を飛べる」という「魔女」の部分ではなく、「キキがキキとしてできること」を褒めてくれたのだ。それは年齢を超えた友情の始まりだ。
キキの前に広がる未来を予感させる
キキが、疎外感に苛まれながらも、なんとかコリコの町でやっていけたのは、彼女がこうしたバイプレイヤーの女性たちと関係を結ぶことができたからだ。彼女たちは、ライフステージも生き方もキキとの関係性も異なっている。
だからこそ、まだ人生のなんたるかを知らないキキの前に、未来という名の余白が大きく広がっていることを予感させるのだ。
では「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」はキキとどんなふうに結びついているのか。