当時のスクールカウンセラーは、「サムの行動が学校を変えました。それはまるで、さまざまなタイプの子どもがいっぱいつまった大きな箱を開けて、子どもたちを世界に解き放ったようでした」と語っている。
テクノ・リバタリアンの「第二世代」には、ピーター・ティールから感じるような「世界に対する敵意」(そしてこれが、ティールの魅力にもなっている)がないが、アルトマンとティールには共通点がある。どちらも、世界の終末に備える「プレッパー(準備する者)」であることだ。アルトマンも子どもの頃から死を不条理だと思い、いつも世界の終末について考えているという。
パンデミック、超絶AIの暴走、核戦争などに備えて、アルトマンはカリフォルニア州に広大な私有地を購入し、そこに「銃、金(ゴールド)、ヨウ化カリウム、抗生物質、電池、水、イスラエル国防軍のガスマスク」を備蓄している。さらには「予備計画」として、最悪の場合は「ティールとプライベートジェット機に乗ってニュージーランドに避難する約束をしたよ」と語っている。ティールもまた、核戦争など「世界の終末」でもっとも生き残る可能性が高い国として南半球のニュージーランドを選び、そこに巨大なシェルターをつくったとされている。
加速主義 対 破滅主義
オープンAIは2015年に、アルトマンがイーロン・マスクらとともに、「人類の脅威にならないAI」を実現するために設立した非営利の研究機関だった。マスクはそれ以前から、数少ない友人の一人であるラリー・ペイジ(グーグル創業者)が開発する人工知能(ディープマインド)が暴走し、人類を滅亡させることを本気で怖れていた。
ところが実際に開発を始めると、高度なAIには多額の資金と膨大なコンピューティング能力が必要なことがわかり、2019年にアルトマンは、営利法人を設立してマイクロソフトから出資を受けることを決める(これを機にマスクと決裂)。
この決断によって開発は急速に進み、質問に対して人間と区別がつかない回答をする「チャットGPT」の公開で世界的なAIブームを巻き起こすと、オープンAIの企業価値は800億ドルにのぼると試算されるまでになった。総額100億ドルの出資を決めて株式の49%(独占禁止法に抵触しない上限)を所有するマイクロソフトは、ブラウザに生成AIを搭載することでライバル社をリードし、株価も最高値を更新した。
一見、順風満帆に見えたものの、2023年11月17日、そのアルトマンが突然、CEOを解任されるという事件が起きる。
じつは営利企業としてのオープンAIは株主によって統治されているのではなく、非営利組織の理事会が支配していた。この理事会は6人で構成されており、そのなかには、このままAIの能力が高度化しつづけると、いずれ人類の存続にとって脅威になると考えるメンバーが含まれていた。