放課後に寄り道して、お腹を満たした飲食店。甘酸っぱい高校時代とともに思い出す懐かしい味の記憶を持つ人は少なくないはず。
『名門高校 青春グルメ』は、名門高校生御用達の味を求めて全国を渡り歩き、200軒以上食べ歩いた記録の書だ。
「取材をしていて、関東周辺は空振り感が強い印象でした。早稲田高校周辺では洋食店『エルム』が2年前、老舗中華『西北亭』が昨年末に閉店。本書の執筆中や出版後に閉じてしまった店は、五つや六つでは利きません。でも『無くなった』という情報も本書に通底するテーマとしては重要です。閉店してもなお皆の心の拠り所であるのなら、何らかの形で紹介することを基本方針にしました」
なぜ青春グルメ店は愛され続けるのか? その理由を「家族経営ならではの居心地の良さ」と分析する。
「思春期は両親の存在が抑圧的に感じられ、3年生になれば大学受験が待ち受けている。高校生は家や学校以外のホームグラウンドを欲しているのです。数々のプレッシャーを抱える中で、息抜きしたい時に自然と訪れるのが、青春グルメスポットなのだと思います」
著者おすすめの青春グルメは数あれど、特に印象深いのは宮城県仙台第一高等学校の近くにある「ラーメンハウスれんぼー」だそうだ。看板メニューのホイメン(630円)は、回鍋肉(ホイコーロー)がたっぷりのった辛味噌ラーメン。生徒の要望に応じて作られた汁なしバージョン「ほぃほぃホイメン」もあるとのこと。さらに「れんぼーの親父さんがSNSに投稿した、次のようなメッセージに心を打たれた」と鈴木さんは熱弁を振るう。
〈難関大学合格よりも、わざわざ、レンボーのオンちゃんにラーメン代払ってまで報告にくる、その気持ちに心から「スッゲー」って思う。(中略)こんな気持ちズット・ズーット消さないでいてほしい〉
「寛容さを失って久しい日本で、希望を見た気がします。名門校は長い年月をかけ、こうした周囲との関わりをも文化として築いてきた。リーダーシップ養成なんて付け焼き刃ではできません。こんな経験が人を見る目を、人と関わる力を養うのです。だから、青春グルメは一生モノ。懐かしいで済ませてはならない。閉店が立て続く中でも、熊本県立済々黌(せいせいこう)高等学校のソウルフードと呼ばれた中華屋の天津飯をOB経営の飲食店で復活させる、といった動きもある。これぞ相伝なのです」
『名門高校 青春グルメ』
全国津々浦々の名門高校の近くには、日本の将来を担うエリートを胃袋から支えてきたグルメの名店が必ずあり、地域ぐるみで生徒たちの成長を見守ってきた。B級グルメに造詣が深い著者が首都圏を中心に、北は北海道、南は九州まで食べ歩いた「青春ソウルフード」の名店200軒以上を一挙に紹介。