明治東京を舞台に、しっかり者の令嬢と不思議な一族の血を引いた青年が、妖魔がらみの事件を追う――。文春文庫の書き下ろしシリーズ『暁からすの嫁さがし』の第2巻が、6月5日に発売される。著者は、小説投稿サイト「小説家になろう」でデビューした雨咲はなさん。雨咲さんにとって、『暁からすの嫁さがし』は「最初から最後までものすごく楽しんで書いた作品」だという。

『暁からすの嫁さがし 二』(文春文庫)

「最初から最後までものすごく楽しんで書いた」作品

 以前から、日本を舞台にした時代ものの小説を書くことに強い憧れがありました。戦国時代から明治・大正時代まで、幅広く好きです。

 ただ、「小説家になろう」は西洋ファンタジーものが好まれる傾向にあります。いわゆる、令嬢や王子様が活躍するような作品ですね。それもあって、「小説家になろう」でがっつり日本を舞台にしたファンタジー小説を書くのは、私にとっては少しハードルが高くて。「投稿サイトだから好きなものを書けばいいじゃない」と言われれば確かにそうなのですが、どうしても「和」よりも「西洋」な世界設定の作品の方が、読者がついている感じがします。

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 なので今回、文庫の書き下ろしで明治を舞台にした小説を書くことができて、ようやく念願が叶いました。私は漫画のコマ割りや絵を想像しながらストーリーを膨らませることが多いので、明治時代の風俗や商いについてのビジュアル本を読んでいると、色々なイメージが湧いてきて……最初から最後まで、ものすごく楽しんで書きました。

ドロッとした暗さのある人を書くのが好き

 今回発売される『暁からすの嫁さがし』の第2巻は、第1巻よりも重ためな人間ドラマが中心です。でも、第2巻も楽しく書きました(笑)。作中では一人、もう救いようがないくらいドロッとした暗い感情をもっている人物が出てくるのですが、彼を書いている時が一番、筆が乗りました。心の中が綺麗すぎる人は、かえってちょっと書きづらいですね。

 ヒロインの奈緒は、比較的恵まれて育った正義感の強い女の子なので、実は書きづらいキャラクターだったりします。第1巻では、奈緒は自分の「正解」を信じて疑わずに突っ走りがちだったのですが、第2巻で、ある事件をきっかけに挫折を味わいます。それで、自分の内面とじっくり向き合うことになる。第2巻の奈緒の方が書きやすかったです。

 各章に登場するゲストキャラにも、それぞれ細かい過去や人間関係の設定があります。彼らのことも重点的に書いたらきっと大長編になるんだろうな……と思いつつ、メインストーリーに関わる最低限のことしか、本編には書いていません。読者の皆さんが想像しながら楽しんでいただけたら嬉しいです。

「小説家になろう」ではヒーロー=王子様が主流だけど……

 基本的に、書き下ろしの作品以外は「小説家になろう」に投稿しているので、今のウェブ小説の流行を知るという意味でも、「小説家になろう」の人気作品は日頃から目を通しています。

 もちろん紙の書籍も好きで、特に宮部みゆきさんの本はほぼ全作品読んでいます。昔『火車』を読んで「わあ、面白い!」と衝撃を受けたのをきっかけに、一気に読みました。『模倣犯』や「三島屋変調百物語」シリーズも好きです。

 個人的に、もうひとつ『暁からすの嫁さがし』の第2巻で楽しく書いたところがあって……1話だけ、時代を遡って江戸時代のお話を書きました。大好きな「三島屋」シリーズに似たものを書くことができたので、嬉しく思っています。やっぱり時代ものが好きなんですよね(笑)。

 王子様だったり貴族だったり騎士だったり……今は魅力的なヒーロー(男性キャラ)が活躍するウェブ小説が沢山ありますが、個人的には、ヒーローは戦う人であってほしいし、武器が「刀」だとなお良し。そういう意味でも『暁からすの嫁さがし』は、私の嗜好をギュギュッと詰め込んだ、書いていて楽しい作品です。

暁からすの嫁さがし 二 (文春文庫)

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暁からすの嫁さがし (文春文庫 あ 95-1)

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