―― まさにそう見えました。大林監督のあの世界観の中では、きっとそれが一番よかったと思います。僕も『FANTASTIC★PARTY』ではヒマヒマクラブのメンバーの1人で、発明家の役で出させてもらいました。当時から手塚さんは絵コンテを描いていましたね。
手塚 はい。ここに絵コンテがありますけれども。普通のノートにこうやって全カット描いて。台本はガリ版を刷って作るんだけど、当時はコピーとかないので、絵コンテは本当にこの1冊があるだけなんですよ。
―― みんなで回し読みしました。
手塚 これを現場でみんなに見せて、こうだとやっていく。アクションつなぎとかも丁寧に絵コンテに描いています。(絵コンテを示し)これは利重剛(当時は笹平剛)(注2)さんが屋上から落ちてしまうアクションシーンです。結構細かいカットの積み重ねなんですよ。本当に1秒に満たないようなカットを、こういうふうに撮っておけば後でつなぐと高いところから落っこちるように見える。
―― 自殺しようとする女の子を助けようとして自分が落ちてしまう場面。
手塚 そうです。本当に数秒なんだけど、その数秒をかなり綿密に割ってますよね。これは僕の癖なんだけど、一つのアクションの中に別の人間のアクションを放り込むんです。普通は1人のアクションを追っていくんですよ。だけど、1人のアクションの途中に別のアクションを挟むんですね。最近でもそういうことしています。
―― こういう時に試してみて、それが自分の思っている感じになったから、自分の演出になっている。
手塚 上映時間が50分あったので、数百カットの絵コンテを作りました。この処女作でずいぶん勉強しました。
―― 普通には撮れない場面も、絵コンテにすると、1カットずつ撮り方を検証できる。
手塚 家全体が空に浮いていくとか、そんなのどう撮ればいいんだという感じだけど、そこをコンテで「こうだよ」と説明すると、「なるほど」と分かってもらえる。
文化祭上映では教師まで並ぶ長蛇の列ができた
―― 家が浮いているシーンは大胆に2重露出でやってましたね。どうやって撮っているかはバレバレだけど、そういう画面があるから、ちゃんとそのイメージが伝わります。
手塚 空に浮いている家はミニチュアで、追いかける人と別々に撮って編集することは誰でも考える。一つの画面の中に入れようと思うと合成になるじゃないですか。でもこれが入るか入らないかで面白さが変わってくると思うんです。
―― 全然違いますよね。
手塚 それが映画というものなんだと、その時うっすらと思っていたんですね。だから、技術的には下手なんだけど、それを入れたいという気持ちが強かった。