もうひとりの中島さんは、現在39歳。日本人初の8000m峰14山全山登頂を果たしたことで知られる竹内洋岳さんの専属カメラマンとしてヒマラヤの経験を積み、2016年ごろから平出さんとコンビを組むようになる。平出さんのピオレドール受賞のうち2回は、中島さんと行った登山によるものだ。
ロッククライミングやアイスクライミングを得意とする中島さんと、高校時代に競歩で全国大会入賞経験があるほどの無尽蔵の体力を強みとする平出さん。おたがいの長所がかみ合ったふたりは名コンビとして世界に知られるようになっていった。
登山界の外では、カメラマンとして知られている部分も大きい。ふたりはプロの山岳カメラマンとしても活動しており、「NHKスペシャル」や「世界の果てまでイッテQ!」などの山岳撮影では知られた存在である。
特に、通常のカメラマンが行くことのできない厳しい撮影現場ではふたりの独壇場ともいえ、山岳レース撮影の現場では選手より強かったというエピソードも伝わるほどだ。
世界の登山家が「こんなところがあったなんて」と悔しがるコンビ
ふたりの登山の大きな特徴は、あまり知られていない山や岩壁を探し出してきて登りきる「未知」の要素が強いことだ。
カメット南東壁にしろ、平出=中島コンビでピオレドールを受賞したシスパーレ(7611m)北東壁やラカポシ(7788m)南壁にしろ、それほど知名度の高い山や壁ではない。ところが彼らが撮影した写真や動画には実に堂々たる巨壁が写っており、それは「こんなところがまだあったなんて」と世界の登山家が悔しがるような代物なのだ。
ここで少し説明が必要かもしれない。
ふたりの登山がすごいのはわかったが、とはいえそれらは7000m台の山である。8849mのエベレストのほうがよほどすごいのではないのかと。そういう疑問を抱く読者も多いかと思う。
ところが現在、エベレストをはじめとした8000m峰はガイド登山のシステムが完全に確立し、ただ山頂に立つだけでは登山史的な価値はほとんどなくなっている。
たとえば今年エベレストでは、5月だけで500人以上が山頂に立ったといわれている。エベレスト以外の8000m峰でも多かれ少なかれ事情は同じで、いまや8000m峰といえど大衆登山の場となっているのだ。