『アンナチュラル』でも描かれていた問題
ベテランドライバーである父(火野正平)は仕事に誇りを持っている。しかし一方で、物流が増える中でのしわ寄せは下請けの配送業者や彼らのような委託ドライバーに集まり、賃金の低さ、拘束時間の長さといった、人員の少なさといった、過酷な労働実態が生々しく描かれる。
こうした労働問題については、『アンナチュラル』でも描かれている。第4話「誰がために働く」ではバイク事故で亡くなった男性の死から、とあるケーキ工場での過労の問題が発覚。そこにある「雇用側と労働者側」「搾取する側とされる側」、「強者と弱者」という力関係が映し出された。
これは今観ると、『ラストマイル』の原点のようでもある。さらには、『ラストマイル』は『アンナチュラル』が描いた先の、社会構造のより深い問題を扱ったと言える。
なぜなら、本作では何が起こっても物流を止められない原因として「雇用主」や「大企業」があり、さらにその先に荷物を待つ「個人」がいることが示されているからだ。つまりこれは、単純な強者と弱者の問題ではない。映画を観ている自分自身もまた、止められない流れの中にいる、責任の一端を担う加害者側にあるということに気づくのだ。
エンタメが社会を変えることもできる
実際、筆者が20代~30代に映画の話を聞いたところ「何でもネットでポチッていて反省した」「これからは配送業者さんに迷惑をかけないように、少なくとも家にいる時間帯を指定しようと思った」など、自らの行動を顧みるような感想が多かった。
それまで社会問題に関心がなかった層にも気づきを与え、個人と社会の接点に目を向けさせる力がエンタメにはある。『アンナチュラル』『MIU404』でも時事性の高い問題が扱われてきたが、『ラストマイル』ではネットショッピングという題材の身近さもあって、若い世代を中心に、より一層「私事」として届いていることを実感する。
野木亜紀子、そしてこのチームなら、本当にエンタメで社会を変えることができるんじゃないか——『ラストマイル』の快進撃から、そんな希望も抱いてしまうのだ。