戦後最大の冤罪事件と言われる「袴田事件」。殺人犯として死刑判決を受けた袴田巖さんの無罪が、2024年9月26日、再審の判決として言い渡された。その袴田巖さんと姉の秀子さんに22年間取材し、映画『拳と祈り ―袴田巖の生涯―』を10月19日に公開する笠井千晶監督。笠井監督にインタビューしたライターの田幸和歌子さんは「映画は巖さんが中心だが、笠井監督は秀子さんの所有するマンションに住み込んで、仕事を超えた付き合いをしてきた。その笠井監督でしか撮れない映像になっている」という――。

確定死刑囚になった袴田巖さんがついに無罪

1966年6月に静岡県清水市の一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田(はかまだ)巖(いわお)さん(88歳)のいわゆる「袴田事件」に対する再審判決が9月26日に静岡地裁で言い渡された。

明日突然、死刑が執行されるかもしれない――そんな恐怖の日々を重ねてきた袴田巖さんを22年にわたって取材、計400時間もの記録映像をもとにしたドキュメンタリー映画『拳と祈り ―袴田巖の生涯―』が10月19日に公開される。

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映画『拳と祈り ―袴田巖の生涯―』より ©Rain field Production

本作の監督で、ドキュメンタリー監督・ジャーナリストの笠井千晶さんは、2002年、テレビ局の報道部にいたときから袴田巖さんの取材を始め、2014年には袴田巖さんの「釈放」の瞬間の表情を至近距離からとらえ、釈放後にはフリーランスとして袴田さん姉弟を取材し続けてきた人。

22年間も同じ対象を追い続け、たった1人で取材・撮影・編集全てを行ってきた笠井監督を突き動かしたものは何だったのか。

姉・秀子さんと静岡のテレビ局に勤めていた笠井監督の出会い

笠井千晶監督が袴田巖さんの取材を始めたのは、静岡放送の報道記者2年目のとき。それから現在までに袴田さんの事件に関するテレビ番組を4本制作してきたというが、東京拘置所に収監されていた巖さんを支える姉・秀子(ひでこ)さんに出会ったことがきっかけだった。