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 ちなみにウクライナ戦争は、メルケル時代に軽視されていた社会インフラ(情報通信領域も含む)の充実など、内政重視に切り替えようとした矢先に発生し、その方面の各種政策を頓挫させてしまった。

 この影響も地味に大きく、たとえば、運行/メンテ体制を充分に確保できず、各種交通機関(飛行機含む)が間引き運転を行うことが常態化している。建物や機器の修理も(それこそ半年レベルで)遅れがちだ。正直、そういう状況下で生活していると「衰退」みたいなものを経済指標の数値以上に実感せずにいられない。

ドイツにぶら下がって生きようと狙う「難民」への感情が急速に悪化

 そして移民難民問題もじわじわと効いている。

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基本的には評価が高いメルケル元首相だが… ©GettyImages

 2015年の難民危機にて、メルケル政権の「門戸開放」路線は当時から賛否両論があったけど、その後ドイツ人たちが心を閉ざしているのが、ドイツの社会保障システムにぶら下がって生きようと狙う「難民」の多さだ。

 おそらく日本人の感覚と違うのは、ドイツでは「移民」はまあまあ歓迎されているということだ。ドイツの経済的な好調はヨーロッパ中から集まる優秀な労働者なしでは維持できないし、ドイツ人もそれはよくわかっている。

 ただ、「難民」への感情は急速に悪化している。

 いささか生々しい話だが、たとえ大量の「難民」を抱えて財政的なロスが出たとしても、「道義的に正しいドイツ」を天下にアピールすることには巨大な政治的意味がある。強国のプライドをお金で買っていると言ってしまうと身も蓋もないけれど、極論的にはそういう構造となる。なのでメルケルが難民の積極的な受け入れを行った時、ドイツ人もある程度の覚悟はできていた。

 だがしかし、それは「食客」たちが問題を起こさず生活している前提で成立する論理であり、難民によるテロ的犯罪が増加する現状ではまったく通用しなくなった。

 とりわけ深刻なのは、移住前の土地の因縁に由来する難民どうしの対立や、移民対難民の既得権バトルといった「どちらかを助けることがさらなる不幸を呼ぶ」的な修羅道じみた事件が急増している点だ。

ドルムントの街並 ©iStock.com

 そしてロシアによる情報戦の流儀に倣ったというべきか、ネットでドイツ国内での「戦闘」が煽られるケースも多い。ここまで来ると、もはや代理戦争の戦場&補給基地として、ドイツの道義性が悪用されているといってよいだろう。ドイツはこの悪しき循環を止められなかった。

 ……と、年を追うごとにドイツ社会のストレスは深刻に蓄積していたが、それでも少し前までは、EU&NATO中心国であるという矜持と驚異的な粘り腰で、戦後のドイツ市民社会が育ててきたモラルを堅持しようと頑張っていた。

 それが大々的に崩れ、ドイツ人が「疲れてしまった」大きな転機は、時期的にみても明らかに、「ガザ地区問題、現イスラエル政府のやりすぎ姿勢」である。イランのミサイル攻撃で状況はさらに悪化している。