1ページ目から読む
2/3ページ目

小さな違和感が徐々に湧き出してくる

 お互いに自立した大人で、文句なしの美男美女。このふたりが、本作の監督と製作も手がけているなんて、天は二物を与えすぎだろうと、うがった気持ちで見始めたはずなのに、すっかりスクリーンに釘付けになってしまう。

 ここで無情にもライルに緊急オペの呼び出し電話が入り、連絡先を交わすこともなく別れるふたり。だが、その後偶然にも再会を果たし、お互いを強く意識。情熱的な恋に落ちていく。

 目標だったフラワーショップも軌道に乗り始め、ライルと一緒に暮らし始めたリリー。情熱に溺れやすい若い頃の恋愛と違い、ある程度年齢を重ねてからの恋愛は体も気持ちも余裕があるので、相手への愛とリスペクトがあっていいなあ、と安心して観ていると、小さな違和感が徐々に湧き出し、突如としてその穏やかで幸せな日々が断ち切られてゆく。流れるように自然に狂気へと誘う展開は、まるでサスペンスだ。

ADVERTISEMENT

 リリーを愛し、大事に想うからこそ、許せないことが湧き出してくるライル。そんなライルに対し、言いたいことを飲み込んでしまうリリー。ふたりの間に確かにあるはずの愛は、なぜ歪んでしまうのか。

「でも、普段はいい人だから」

 ご多分に漏れず、リリーへDVをした後のライルは誠心誠意謝罪し涙ながらに許しを請う。大人になって、配偶者やパートナーから「暴力」と思える行為を受けている人に仕事やプライベートで会ったこともあるが、みな一様に「でも、普段はいい人だから」と許してしまうのが不思議だった。

「暴力をふるうような人は、殴り返して警察に突き出せばいい」

 と、私は本気で言っていたのだけれど、DVは「手を上げて相手に謝る」までが1セットといわれている。「反省しているからもう大丈夫」「本当の彼は私を愛している」と思いたくなるのは、愛するがゆえなのか、それとも情にほだされているだけなのか。

愛するライルからのDVを受け、リリーは自分自身の過去と向き合うことを決意する。

 今年のノーベル文学賞は、アジア人女性初の韓国の作家、ハン・ガン(韓江)さんが受賞した。韓国では、ジェンダー政策を「女性優遇」と批判する声も多いが、「ヤング・フェミニスト」世代の勢力は確実に世界を変えている。

 11月25日には、国連が定める「女性に対する暴力撤廃国際デー」もやってくる。女性の地位向上、ジェンダー不平等撤廃を訴える3月8日の「国際女性デー」も、少しずつ、でも確実に認知度が上がってきているように感じる。