「それはフェイクニュースだ。イランへの攻撃は、残酷なテロリストに対してきちんと対応しただけだよ。戦争なんかにはならないって、大統領自身が言っているじゃないか。それに、健康保険制度も見直しているし、退役軍人への保護も手厚くしている。女性だってちゃんと尊敬している。大統領は中絶を認めない生命尊重派(プロライフ)の立場だ。オレ自身、クリスチャンだから、そこは譲れないポイントだな」
生命尊重派という言葉は、大統領選挙に限らず、アメリカで生活していると必ず出くわす言葉だ。反対に中絶を肯定する立場は中絶擁護派(プロチョイス)と呼ばれる。日本では想像しづらいが、中絶を容認するか否かは、アメリカでは大きな政治問題の1つだ。大きく分けると、共和党が生命尊重派で、民主党が中絶擁護派の立場をとる。
トランプは昨年19年末、下院で歴史上3人目の弾劾を受けた大統領となりました、と私が尋ねると、相手の表情が険しくなるのが分かった。
「それもフェイクニュースに決まっているじゃないか! たとえば、オレがあんたのことを気に入らないっていう理由で弾劾することもできるんだぜ。それをあんたなら受け入れるのかい。あれは民主党の一方的な弾劾であって、そんなことには、なんの意味もないね」
トランプにぞっこん入れ込んでいるコーティスに訊いてみた。トランプに不満な点はないのか、と。
「そうだな。ヒラリー・クリントンやジョー・バイデン、(民主党の大物上院議員の)チャック・シューマーを、まだ監獄に送っていないことかな」
冗談かと思って相手の顔を覗き込むが、目は笑っていない。
いったい何の罪で彼らを監獄に送れるというのか、と訊きたかったが、なんせ流れている『Y・M・C・A』のボリュームが大きすぎて、これ以上会話を続けるのが難しかった。
この最初に話を聞いたコーティスとは、そのあとも何度も顔を合わせる。同じようにトランプを追いかけているのだから、広いアメリカであっても、不思議なことではなかった。
「思ったことを思ったように口にできる勇気」
その後、会場の入り口付近で待っている人びとがいるところに移った。簡易テントや寝袋などを持ち込んで順番待ちをしていたのは10人強。
夫婦で列の一番前に折り畳み式の椅子を置いて座っていた女性に声をかけた。
女性の名前はオータム・レンズ(39)。
「ここから20マイルほど南にある町からきたわ。私はその町の共和党の委員会に所属しているの。トランプ大統領の集会に来るのはこれで3回目。1回目と2回目は、16年だったわ。大統領が大好きな理由は、彼なら他人を怒らせるようなことでも、躊躇なく口にすることができるでしょう。ほかの政治家は、政治的に正しいかどうかなんて細かいことばかりを気にするけれど、彼にはそんなところはない。思ったことを思ったように口にできる、勇気がある大統領なのよ。体裁を気にした発言はしないわ」
──女性蔑視と思われるような発言も少なくありません。
「それは気にならないわ。男性はしょせん男性だもの」
──とはいえ、大統領には一般の人よりも高い倫理観が求められるのではないですか。
「そんなことを言い出したら、大統領になれる人なんていないんじゃないの。ジョン・F・ケネディだって、トランプとは比べ物にならないくらい女性関係は派手だったというでしょう」
彼女の次の言葉を聞いて、私は意表を突かれた。