「18歳から約20年間、私はずっと福祉のお世話になってきたの。去年の春、工場の仕事を見つけるまではね。10月からは、ここから歩いて数分のスターバックスで働いているの。どっちが好きかって? そりゃ、スターバックスよ。だって、私はコーヒーが大好きだし、そのコーヒーのお店で働くんだから。これもトランプ大統領のおかげで景気が上向いたからだ、と感謝しているわ」

 長年福祉に頼るほど困窮している人は、民主党を支持する傾向が強い。民主党は、フランクリン・D・ルーズベルト大統領以降、社会的弱者の味方の旗を鮮明に掲げてきたからだ。なぜ、彼女は共和党員なのだろう。

「最近、再婚するまで、私1人で子ども5人を育てる間、どうしても福祉に頼る必要があったわ。でも、自分の生活費は自分で稼ぎたいじゃない。それがアメリカって国でしょう。自分のことは自分で面倒みるっていうことが」

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 うーん、なるほど。

 たしかに誰にも頼らないという姿勢が、アメリカ人の生活の根幹にある。誰かに頼るということは、この国では弱さや甘えとして見下されがちである。20年近くも福祉に頼りながら、そこから脱却したいと願い、それを果たしたというのはアメリカ人らしいな、と感じた。

不人気と熱狂的支持

 まだ、いろいろな人の話を聞きたかったのだが、私の防寒着があまりにも貧弱すぎて、氷点下の寒風の中では、ペンを持つ手が震えた。ノートに文字を書くのさえ難儀した。翌日の朝、着込んで出直すことにした。

 翌日は朝9時から、集会の会場に戻り取材を再開した。

 会場近くの駐車場に車を停めようとすると、1日20ドルだという。その看板の裏を見ると、24時間で5ドルと書いてある。集会で人が集まるのを見込み、日頃の4倍の料金を吹っかけているのだ。それでも、満車になるほど車が押しかけていた。

 会場に到着すると、道端にはすでに、トランプの帽子やマフラー、バッジなど、さまざまなトランプグッズを売るスタンドがいくつも立っている。ホットドッグやコーヒーを売るトラックも5台停まっていた。ちょっとしたお祭り騒ぎである。

 私は支持者の話を聞き終わると、場所を後ろにずらし、次の取材相手を探していった。

 この日、最も印象に残ったのは、「アメリカを偉大なままに!」の赤い帽子を被り、同じ色のトレーナーを着て、背中には星条旗をまとっていた男性だった。

 平日はエネルギー関連会社で働き、日曜日はキリスト教右派の福音派の教会で牧師を務めているというデービッド・カーペンター(53)だ。

教会の牧師を務めるデービッド・カーペンター 著者撮影

「どうして集会に来たかって? トランプは、最も嫌われている大統領だろう。だから、私のような支持者もいることを伝えたくって、息子2人を連れてやってきたんだ。娘もいるんだけれど、今は大学に進学してオハイオを離れているんでね。でも、オハイオにいたのなら連れてきただろう。そう、我が家は妻を含めた5人家族で、みんなトランプ支持者だよ。大統領にも我が家のような支持者がいるってことを見せたくってね」

 トランプがアメリカ史上最も嫌われている大統領というのは、その通りである。