無化粧だと冷たくされるアイドル

 私は数年に及ぶ結婚生活で「自分には何もない」と思い込んでいた。しかし、結婚前には案外、自分の足で立てていたのかもしれない。今さら、その事実に気づくなんて。

――大木さんが芸能活動をする上で出会ってきた女性タレントや女優時代の仲間からも、そうした経験は聞いたことがありますか?

大木 有名プロデューサーと結婚した元タレントの子は、人前では華美な装いを求められるのに、家ではドケチで外にも出してもらえなくて。どうしても夜出かけたい時は、「番組の打ち上げがある」と嘘をついて、アリバイのために“打ち上げのビンゴで当てた商品”として、ドン・キホーテで香水を買って帰っていました。

 私が見てきた芸能界にはきれいで才能ある子がたくさんいるのに、なぜか自己肯定感が低い子も少なくありませんでした。するとそのうち、英治のような男に捕まって、体重測定をされたり、無化粧だと冷たくされたりするような、つらい目に遭ってしまう。

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 そういったエピソードを見聞きした経験も本作には反映されていますが、一番は「お料理エンタメ小説を書く」ことがテーマだったので。最終的には、あまり深刻な気分にならず、占いやダンスなど華やかな世界も交えながら、フラットな視点で書くことを心がけました。

 

――前回、キャリアのために大木さん自身も“かわいい女の子”として振る舞うことを自分に課していた、というお話もありました。

大木 女優時代、運よくドラマや映画で大役を演じたこともあったものの人間関係で悩み、にっちもさっちもいかなくなった時、芸能界のドン的な大物の方に会う機会があったんです。そうしたら、会って5分で「君は“いい子ちゃん”でいようという魂胆が丸見えで何を考えてるか全然分かんないし、人間としての魅力が分からない。自分の意思を持たないアンドロイドみたいな人間だね。まず、その人格を矯正したほうが良い」と言われてしまって。

――キャリアのために感じよく振る舞っていたにもかかわらず、アドバイスとしては真逆の言葉が返ってきたというか。

大木 自分でした選択なので、私に責任があるのはもちろんですが、組織や業界の中で“使いやすい女性”が重用されてきた中、その鋳型にハマらないと生き残れない社会構造もありましたよね? と思うんです。一体、こんなアンドロイドみたいな人間を作ったのはどこのどいつなんだい、と。

 私をメディア業界の男性達の食事の席に呼んだ女性社員だって、そうでもしなければ上にいけない慣例があったのではないでしょうか。

 当時は、芸能界の大物の前でニコニコしているのが精一杯でしたが、35歳になった今は、個人の責任だけで終わるものではないと感じています。