2003年作品(137分)/松竹/レンタルあり

 十月五日、筆者の新刊が発売になる。タイトルは『すべての道は役者に通ず』だ。

 これは二十三人のベテラン俳優にそれぞれの役者人生を語っていただいたインタビュー集で、その名の示す通り、彼らのさまざまな「道」が記されている。役者になるまでの道も様々で、新劇や映画会社といった王道はもちろん、歌手、古典芸能、喜劇などから入ってきた方々も登場する。

 その中に二人、名優の二世として生まれ結果として父と同じ道に踏み出した役者がいる。中井貴一と佐藤浩市。中井は幼い頃に亡くした父・佐田啓二の幻影を追うように。佐藤は現役バリバリの三國連太郎と相克ともいえる葛藤を抱えながら。それぞれの想いを抱えて役者になり、そして今では二世であることを忘れさせる存在として立場を確立している。

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 今回取り上げる『壬生義士伝』は、そんな二人が二十年以上のキャリアを経て共演した、時代劇映画である。

 舞台は幕末の京都。新選組の隊士・吉村貫一郎(中井)は隊随一の剣の腕前の持ち主だった。だが、故郷の南部に残してきた妻子に送金するため、武士らしからぬ金への執着を見せていたため、周囲から蔑まれていた。中でも、斎藤一(佐藤)は吉村に強い反発を抱く。だが、吉村は全く気にせず家族のために生きた。

 面白いのは、当時の中井と佐藤の時代劇に対する想いの温度差が、本作の芝居にそのまま表れていることだ。

 両者とも、デビュー間もない頃から時代劇には出続けている。が、大河ドラマ『武田信玄』での主人公・信玄役など時代劇で数々の名演を見せてきた中井に対し、佐藤は時代劇を「大嫌い」だったと語る。が、本作の少し前に自らの芝居を「酷い」と反省、以来時代劇に本腰を入れるようになる。一方の中井はその時点で次世代に残すため「時代劇を自分が継承する」という意識を抱く段階まで来ていた。

 時代劇に目覚めたばかりの佐藤と、時代劇を背負う覚悟の中井。両者の状況の違いが、芝居に生々しい緊迫感を与える。吉村に苛立ち、いつも突っかかっていく斎藤を演じる佐藤は実に熱くギラギラしており、それをひたすら黙って受け流していく吉村を演じる中井の芝居は余裕さえ漂う熟練ぶりを見せている。この「動」と「静」の対極的な芝居のぶつかり合いが物語を大いに盛り上げ、だからこそ、やがてそれが一つの友情のドラマとして溶け合っていく展開に感動が生まれていった。

 新刊本で両者の本作に至るまでの道のりを知ってもらった上で接すると、劇中の人物だけではない役者のドラマとして重層的に楽しんでいただけると思っている。