1ページ目から読む
3/3ページ目

アンケートにはびっしり感想が書かれていた

 2016年5月、学校事故や事件の被害者や遺族関係者が集まる「全国学校事故・事件を語る会」の集会が開かれた。そこで南部准教授は「みんなで日体大を変えよう」と宣言するほど意気込みがあった。研究所ができたのは2年後だが、まずは、大学に被害者を呼び研修会を開く提案をした。しかし、前例がないことだ。当初大学側も及び腰であったが、前学長の“鶴の一声”で、この画期的な取り組みが実現した。

 第1回目の研修会は、被害者遺族の話に加えて、大学教授も呼んだ。教員志望の学生を含む300人ほどが集まり、関係者も参加することになった。学生には好評だったという。アンケートにはびっしり感想が書かれていた。感想を読むのを楽しみにしている被害者遺族もいる。多くのメディアで紹介された。南部准教授は言う。

「日体大は、『スポーツ事故や体罰に関する学生教育を重視している』と対外的にアピールする場になりました。初めは私一人でやっていましたが、次第に、組織として、バックアップしようとなったのです」

ADVERTISEMENT

©iStock.com

学生が萎縮するのではないかとも言われているが……

 これまで、体育大学では、スポーツの危機管理については、各科目の中で教えてきた。スポーツのポジティブな面を教えることでモチベーションを高めたいが、事故や事件などのネガティブな面を伝えることで学生が萎縮するのではないかとも言われることがあるという。

©渋井哲也

「体育系の学科で、危機管理や体罰、スポーツ事故に特化した専門家はほとんどいません。そのため、他の大学からみても、羨ましがられている面があります。研修会に参加して感銘を受けた研究者が、自分の大学へ戻り、学長等に“研修会をやりたい”と言ってみたとの報告もありますが、なかなか実現しないようです。

 事故の生々しい実態を知ることで、学生が将来の進路を悩んではいけないとの配慮があるのではないかと思われています。しかし、スポーツはリスクを負っているということをきちんと教えることが教育です。知らないと繰り返してしまいますし、最悪の事態を知っていれば、水際で止められる可能性があります。こうした実態を学生は知る権利がありますし、教員は教える義務があります」

「変わってきた感覚はあります」

 日体大出身の教員は全国に散らばっている。教員向けの研修会をすると、そこから繋がった教員から相談をされることも多くなってきた。今のところ、研究所ができたばかりで、南部准教授の個人的な活動によるネットワークが主になっている。だが、学内のムードも変わりつつあるという。

「日体大が変わってきた感覚はあります。教員に危機管理意識が根付いている気がします。私のような人間が一人でもいると、事態を悪化させる前に情報共有をし、多くの人からの助言を受けなければ、という意識が出てきています」

 今後は、11月7日は「部活動中の重大事故と体罰の問題について考える研修会」、12月13日は「『いじめ』『指導死』の問題について“本気で”考える研修会」を開催する予定だ。

INFORMATION

日本体育大学スポーツ危機管理研究所
https://www.nittai.ac.jp/kikikanri/index.html

さいたま市教育委員会作成「体育活動時等における事故対応テキスト~ASUKAモデル~」
http://www.city.saitama.jp/003/002/013/002/p019665.html