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「コンビニ外国人」と「幻の留学生30万人計画」“日本版移民政策”の不安とは何か?

“出稼ぎ留学生”を生み出したのは経済大国としての余裕だった

2018/11/12
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大卒の留学生 初年度に年収400万円も

 今後、留学生が増えていけば、日本語を流暢に話すベトナム人やネパール人が日本人の上司として働く日も遠くはないだろう。

 創業から10年で売り上げ100億円を突破し、破竹の勢いで拡大を続ける会社の創業者は、ネパール人の元留学生である。飲食事業を中心に展開するTBIホールディングスだ。パート・アルバイトを含む従業員は3000人以上を誇る。現在、取締役名誉会長の彼は、留学生時代には、居酒屋でアルバイトしていたという。規模は違えど、元留学生が起業する例も少しずつ増えてきている。

©iStock.com

 就職を目指す留学生の進路として需要が増えているのはどのような職種だろうか。都内で留学生の就職支援をする会社に聞いてみると、いま、需要が多いのは、「技能実習生や留学生を管理するマネージャー職」だという。

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「日本語とベトナム語、日本語とネパール語など、不自由なく流暢に話せるバイリンガルなら、初年度で年収400万円を保証する会社もあります。『本人の希望年収も最大限支給します』という会社さんも多いですね」

 今後、外国人労働者をマネージメントする役職の需要はますます高まっていくに違いない。

 しかし、大卒の留学生でも、希望する職種へはなかなか就職できないのが本当のところだ。「日本の企業で就職したい」と願っても、実際に就職できるのは全体の3割から4割程度だという。外資系企業に流れる留学生も多い。

 今年7月、東京大学の留学生をJETROが支援する就活イベントを見学したが、参加していたほぼすべての企業が外資系だった。日本の企業は、一部上場の会社さえ外国人の受け入れ態勢が満足に整っていないのが実情である。

 こうした状況を受けて、この9月には、大学や大学院を卒業する留学生の就職制限が緩和された。これまでは、大学などで学んだ内容と関係する職種にしか就職できなかったが、来年4月からはこうした制限が撤廃される。

移民の議論は、今後、半永久的に続く

 こうした日本の状況とは正反対に、アメリカはいま移民を締め出しにかかっている。“移民の国”が自国の歴史を否定するかのように移民排斥の方向へ向くのを見ていると、外国人労働者の問題がとてもデリケートで根深いことに改めて気付かされる。

トランプ政権の入国禁止令への反対デモ ©Getty Images

 大規模な外国人労働者受け入れがはじまる2019年4月以降、日本はどうなるのだろうか。

 いま、その未来図を正確に描ける人はきっといない。今国会の混乱は、外国人労働者受け入れの問題を“先送り”もしくは“棚上げ”にして、わたしたち自身が見て見ぬフリを決め込んできた結果なのかもしれない。

 わたしは、個人的には中長期的な外国人労働者の受け入れには賛成の立場だ。しかし、今回のような制度設計がきちんと整わないままの、“見切り発車”とも思える急激な受け入れ拡大には反対である。

 受け入れ人数や職種に関しては線引きもあいまいなままだ。議会が踊る状況をまざまざと見せつけられて、実際に来春から外国人労働者を受け入れる現場では不安の声が広まっている。

 はじまったばかりの移民に関する議論は、今後、半永久的に続くだろう。いや、続けなければならない。国会だけでなく、井戸端会議でも床屋談義でも、SNSでも、さまざまなレベルでの議論が必要なのだと思う。

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