資金や人材に頼って状況を変えるという発想がダメなのだ
うーん、何か他にないのか、と頭を抱えていてふと気づいた。そもそも親会社やメジャーから資金を貰ったり、人材をどこか外から持って来たりすることにより、状況を変えるという発想がダメなのだ。思い起こせば、2021年。前年の最下位から一転、オリックスがリーグ制覇を果たした時のメンバーは、その殆どが前年も球団にいた選手たちだった。そう、我らが中嶋聡は大型補強をすることなく、また、それに頼ること無く、チームを変えて見せたのだ。すごいぞ中嶋、やっぱりうちの(以下、自粛)。
しかし、考えてみれば不思議な話である。持っている資源は、これまでと基本的に同じ。にも拘わらず、パフォーマンスが大きく変わるのは何故だろう。リストラや経営組織の改編をすれば、無駄なコストは削減できるけど、基本的な生産の仕組みは変わらないので状況が根本的に改善することはない。生産性の高い部門に多くの資源を投入するのも同じことだ。何故なら資源の配分を変えれば、アウトプットの配分も変わるけど、それにより何かが新しく生まれる訳ではないからだ。多くの資源を投入すれば、比例して生産が向上することが保証されている訳でもない。資源の過剰投入により、逆にパフォーマンスが低下することだってあるからだ。基本的な資源の使い方や組み合わせが変わらないなら、劇的なパフォーマンスの改善がないのは当たり前だ。
それでも、社会や組織のパフォーマンスが劇的に変わることがある。この過程について説明した経済学の古典的概念が「創造的破壊」という奴だ。時に誤解されるこの概念は、闇雲に既存のシステムを破壊しろ、とか、或いはイノベーションが大事だから技術開発にお金を使え、ということではない。この概念を提唱した研究者が使ったのは「新結合」という言葉である。即ち、それは社会や組織が有する既存の資源に、新たな組み合わせや、新たな要素を加えることで、それまでの組織のパフォーマンスを劇的に改善することである。新たな要素や新たな組み合わせで、それまでの資源の使い方を一変させ、生産の仕組みを変えることで、組織のパフォーマンスをも一変させるのである。
ポイントは「破壊」ではなく、「創造」なのだ
振り返れば、それはオリックスが中嶋監督就任後に行って来たことと類似している。低迷期に既にチームにあった選手という名の「資源」に、新たな指導やトレーニングといった「要素」を取り入れ、ポジションを入れ替えて、これまでとは異なる形で活用する。宗の三塁手や福田の外野手はその典型的な成功例だろう。ジョーンズは選手としては期待したほどの活躍じゃなかったけど、杉本をはじめとした打撃陣に大きな刺激を齎した。まだルーキーだった宮城や紅林を抜擢したのも、中嶋だ。
大事なのは、従来からある資源を如何に活用し、新たな息吹をもたらすかであり、何かを闇雲に破壊することではない。そして「企業者」の手腕の見せ所はそこにこそ存在する。つまりは、ポイントは「破壊」ではなく、「創造」なのだ。
とはいえ、その様な「創造的破壊」を継続するのは、決して容易ではない。だからこそ、そこにはこれまでの「資源」を刺激する為の新しい要素を常に供給する必要がある。
でも、オリックスにはその心配はないように見える。何たって、今年の開幕戦での登板が最有力視されているのは、高卒3年目、1軍登板経験なしの、山下舜平大だからである。期待を集める20歳のドラフト1位選手が、山本由伸も宮城も、そして田嶋も山岡もいるチームでプロ初登板を開幕戦で果たす。それが投手陣、そしてチーム全体に刺激を与えない筈がない。「創造的破壊」の概念を打ち出した経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターの名を生まれながらに与えられた20歳が、チームにどのような「新結合」を齎すのかが、楽しみだ。
さて、それでうちの研究科は、どうしますかね。大学も4月に入れば新年度。うちの研究科そして大学を一変させてくれる「シュンペータ」どこかにいないかな。とりあえず「パ・リーグTV」でも見ながら、考えるとしますかね。
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