外務省の“茂木作戦”、異能の総務官僚が苦戦、菅vs.経産省のバトル、警察支配が各省外局へ

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★外務省の“茂木作戦”

 外務省が茂木敏充外相の“売り出し”に一役買っている。茂木氏は外務副大臣を去った10数年前、役所に「アイ・シャル・リターン」と宣言したほど、外相就任を熱望してきた。「能力は抜群、でも人望がない」が通り相場だった茂木氏も“ポスト安倍”を意識して随分、人当たりを変えている。だがそれ以上に、茂木外相を想定して外務省は作戦を練ってきた。

 先頭に立ったのは秋葉剛男事務次官(昭和57年、外務省入省)だ。秋葉氏は茂木氏とは勉強会も一緒にしてきた旧知の仲。もう1人のキーパーソン、山田重夫総合外交政策局長(61年)も、かねてから茂木氏とは連絡を取り合う関係だ。

「茂木氏との打ち合わせで資料の紙をめくる音を立てると激怒される」という“伝説”に対しても、外務省は「茂木大臣は資料を見ている間に全てを記憶するので、その妨げになるのが嫌なだけ。同じタイミングで紙をめくれば何の問題もない」と説明。記憶と理解能力が抜群のため、「国会答弁の事前打ち合わせや資料作りも大幅に軽減された」とメリットを強調する。

 外務省にとっては、前任の河野太郎防衛相より実利もある。河野氏は対ロシア外交の取り運びで首相官邸の不興を買った。スタンドプレーを好んだ河野氏に対し、茂木氏は官邸の意向に沿ってロシア外交を進める構えで、初のロシア訪問も臨時国会が閉幕した後の12月中旬を想定している。河野氏が「弾丸外交」と銘打って週末を利用して外国へ出かけ、準備で事務方も疲弊していたのとは打って変わったスタイルで、この点も外務省は好感している。

 官邸主導の今、外務省にとって最も重要なのは、大臣が官邸といかに密接に連携できるか、だ。その意味で、事務処理能力が抜群で安倍晋三首相にも重用される茂木氏が、現時点では外務省にとってベストなのは間違いない。

★異能の総務官僚が苦戦

 菅義偉官房長官の直轄地とされる総務省が最近、精彩を欠いている。肝いりの携帯電話料金の4割値下げは「3社寡占」の壁に阻まれ、寡占打破を期待される楽天の参入も半年延期された。携帯電話を巡る失態は、谷脇康彦総合通信基盤局長(59年、旧郵政省)の足元を揺さぶる。

 通信政策を指揮する谷脇氏は、霞が関では「突破力のある異能官僚」として知られてきた。内閣官房でサイバーテロ対策を担当していた時には、各省庁へのハッカー侵入を徹底的に調べ、「サイバー防御に出遅れた官庁の尻を叩き続けた」(官邸筋)とされる。そんな他省庁との軋轢も辞さない手腕が、菅官房長官には高く買われた。財務省の岡本薫明事務次官(58年、旧大蔵省)とは愛媛県の名門私立、愛光高校の同級生で親しい間柄。ワシントンの日本大使館に勤務したことがあり、米通信業界にも人脈を持つ。

 旧郵政省組が総務省のトップになるのは3、4年に一度が通例だが、今夏に旧郵政省出身者としては4年ぶりに鈴木茂樹氏(56年)が事務次官に昇格したばかり。対して、旧自治省出身者では黒田武一郎総務審議官(57年)、林崎理消防庁長官(58年)、内藤尚志自治財政局長(59年)と、粒揃いの人材が次官レースを走っている。

 ただ、谷脇氏は「どんな時にも仕事から逃げず、火中の栗をあえて拾う」(有力課長)と言われる人物。携帯電話の問題を凌ぎきれば、来年は元首相秘書官の山田真貴子氏(59年、旧郵政省)の後任として、次官待ちポストの1つ、総務審議官に就く可能性がある。

 他に、旧郵政省OBの間では、前官房長の武田博之内閣審議官(59年)を推す意見もある。郵政事業から情報通信、人事部門まで幅広く経験し、「政治的な案件のさばきもうまい。総務省に戻れるなら、次官候補として処遇されるはず」(局長経験者)。

 一方、旧自治省もふるさと納税では大阪府泉佐野市の反乱に右往左往しており、決して盤石とは言えない。携帯値下げ、ふるさと納税ともに菅氏が主導してきた政策だけに、鈴木次官らの表情も曇りがちだ。「トラブルが続けば、官房長官の権勢に陰りが生じかねない」(自民党郵政族)との危機感も生まれている。

★菅vs.経産省のバトル

 最低賃金の引き上げ幅を巡って、政府内で意見対立が起きている。以前から「5%程度の引き上げ」を主張しているのが、菅義偉官房長官。これに対し、「中小企業が潰れてしまう」と懸念しているのが、今井尚哉首相補佐官(57年、旧通産省)や安藤久佳事務次官(58年)ら経産省勢だ。

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source : 文藝春秋 2019年12月号

genre : ニュース 社会