久世光彦 色っぽい囁き

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『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』など、数多くの名作ドラマを手掛けた演出家、久世光彦(1935〜2006)。デビュー時から演技指導を受けた女優・岸本加世子氏が師匠を語る。

 久世さんはたしかに変人でしたね。初めてお会いしたのは16歳で、ドラマ『ムー』(1977年)でデビューしたときです。マネジャーとTBSの狭い部屋に入ると、ジーンズ姿の久世さんがいました。当時は40代前半だったはずです。

 プロデューサーから励まされるかと思ったら、つっけんどんで冷たく、「なんなの、この人?」と思ったのが第一印象でした。言われたのも「収録日まで床を乾拭きしとけ」だけ。お手伝いさんのカヨちゃん役なので、雑巾がけの練習をしておくように、という意味でした。

久世光彦 Ⓒ文藝春秋

 リハーサルでは、初日から久世さんに「帰れ!」と怒鳴られ、タバコのピース缶で頭を叩かれました。それも缶の角で。私は「こんちきしょう!」と思って、意地でも泣きませんでした。本当に怖くて辛かったけど、あの厳しさは久世さんの親心だった。というのも、渡辺美佐子さんや伴淳三郎さん、由利徹さんら大御所ばかりのなか、私ひとりがズブの素人。怒鳴られてばかりの私をみなさん励ましてくれました。そうやって早く溶け込めるように、新人でも容赦なく指導してくださったと気づいたのは何年も経ってからでした。

 それに演技に厳しいのは私にだけではなかった。あの森繁久彌先生にも「森繁のお父さん、今の芝居は20点」なんて、みんなの前でダメ出しするんですよ(笑)。

岸本加世子氏(事務所提供)

 私が10代の頃には久世さんのご自宅に呼んでもらったことが何度かあります。独り暮らしだったので、ちゃんと食べてるかと心配してくださったようです。お嬢さんふたりは同世代。すぐ仲よくなり、一緒に奥様の手料理をご馳走になりました。

 私が演じたカヨちゃんは、呼ばれたら「はーい!」と元気よく返事をします。実は、久世さんから「テレビを観る親が、子どもに『カヨちゃんみたいにするんだよ』と教えるような返事をしなさい」といつも言われていました。久世さんのなかで、日本人の礼儀正しさとか風習を大切にしていたのかもしれません。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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